第30話 12話(2)
ローデンたちが隠しルートから城内へと侵入しようとしている一方。
爆発が起きた城内はまさに大混乱と言っていい状況だった。
これまで国内も含め、国全体で平和主義を掲げていたこともあり、およそ数百年近くにわたって争いなどをしてなかったこともあり、今朝の予期していないであろう爆発は城内で待機していた兵士たちは大混乱していた。
爆発が起きた場所に兵士たちは消火器などを持って必死に消火活動をしながら、残りの兵士たちはベルクラウス直接の指示の元、全体の9割以上の兵士たちを率いて、城外にいるであろう実行犯を捕まえるために移動させる。
これによって、城内に待機していた兵士の数は10分の1以下にまで減った。
そして、爆発が起きた場所の消火活動が予想以上に時間がかかりながらも鎮火し終わると、兵士たちは慎重に丸焦げになった扉をゆっくりと開ける。
入った直後、兵士たちはその現状を見て愕然とした表情に変わった。
「お、おい。嘘、だろ」
兵士たちの目に飛び込んできたのは、首元を刃物のようなもので深く切り付けられ、壁にもたれるように倒れているホムラ令嬢の姿。
辺りにはその時に出たと思われるおびただしい量の出血が見られていた。
長い間、ベルラティア王国の王族関係者が暗殺されるという事件が起こっていなかった影響か、血だらけのホムラ令嬢を見た兵士の一人が悲鳴に近い叫び声をあげた。
「う、うわぁぁぁぁぁぁ!」
見事に取り乱している兵士の一人を別の兵士が気持ちを落ち着かせるために必死な説得を試みる。
「落ち着け! 気持ちが乱れるのはわかるが、今はホムラ令嬢のご遺体をここから運び出すことを優先しろ。ショックなのはわかるが、今は状況が状況だ。とにかく今は慎重に運び込むぞ」
必死の説得によって取り乱していた兵士の気持ちは少しばかり平常心を取りもどした。
この国そのものが平和だったこともあって、血だらけの人の姿を見て取り乱してしまうのはある意味人間の中に秘められた本能と言ってもいいだろう。
兵士たちは辺りに誰かが隠れていないかどうか警戒心を高めながら、意を決して近づいていった。
しかし、これがホムラ令嬢に近づこうとした兵士たちの最後の遺言となった。
そして、舞台は再び変わってローデンサイドへ。
ずっと終わりが見えず、明かりらしい明かりもない暗闇の中、恐らく人為的に作られたであろうトンネルを通っていた。
サラディアによると、このトンネルは地下を通じて城の内部に侵入できる仕組みになっており、一度トンネルを出てから一部の関係者しか知らない裏階段を登っていくことになっている。
このルートは元々、数百年も前に王族たちが何かあった時に地下へと避難するために作られたものだったそうなのだが、この国が平和主義国家に方針展開してからというもの、全くと言っていいほどテロを含めた王族を狙った襲撃が皆無だったこともあり、結果的に作られるだけ作られて放置されて今現在に至っている。
あまりにも昔過ぎて、ベルクラウス以外の今生きている王族関係者たちはこの隠しルートの存在を全く知らない。
そんなルートを今こうしてテロリストの関係者だったサラディアたちと一緒に王族関係者である黒幕ベルクラウスを倒そうとしているのだから何とも皮肉な話である。
「それにしても、本当に暗いな。いくら隠しルートとはいえ、まともな明かりもないなんて」
「普段は各自で明かりをつける魔法を使ってるんだけど、魔法を使うことで敵に魔力を察知される可能性があるからね。リスクは可能な限り排除しておかないと」
リデルの率直な疑問に対して、顔色一つ変えずに答えるサラディア。
明かりを使わないのは、そういう理由だったからか。
今の緊迫した状況の中で、兵士たちに魔力を感知されたら俺たちはまずテロリストと断定されるのは容易に想像できる。
無駄な体力を消耗しないためにも、ここは致し方なしといったところか。
しかし、リデルの指摘通りいくらサラディアが普段からこのルートを使っているとはいえ、明かりがないと数十センチ先すら真っ暗でまともに何も見えない状態では不安に感じるのも無理はない。魔法が使えないのならせめて明かりくらいは持って行ってもよかったのではないかと思っても仕方ないが、事態が一刻を争うだけにそこまでのリソースを回す余裕がなかったのである。
それでも、真っ暗な一本道をあえて魔法を使わずに通っているおかげか、敵の足音一つ聞こえてこない。
流石はテロリストたちが城内でベルクラウスとやり取りするために使われたルートだけのことはある。兵士たちの声も足も気配も微塵も感じないのはそれだけこのルートを知っている人間がごく少数であるということがわかる。
隠しルートを歩き始めてから30分程が経つ。
「着いたわ。この扉を開けた先がベルクラウスの部屋よ。ここから先は、誰かを助けようという甘い考えは出来るだけ捨てる事、いいわね?」
サラディア自身がこういう空気がひりつく場所にいた経験があるからこその忠告。
俺はその考えそのものは否定をするつもりはない。
だが、俺は正教会で救えなかった仲間の無念のためにも、正式な仲間ではないとはいえ、リデルもサラディアも共に戦ってくれる存在であることは事実。
あのシスターがわざわざ俺を殺すことなく、生かして旅のお供にしてくれたのは俺自身が混血の適合に耐えきったからこそである。
まだ完璧に混血の力がどのようなもので、どう扱えばいいのかを把握しているわけではないがそれでも、自分なりに何とかするしかない。
「大丈夫です」
俺とリデルは息を合わせたように返事を返す。
その返事を聞いてサラディアはどこかほっと安心したようなため息をついた後、改めて真剣な顔つきで返答する。
「じゃあ、行くよ!」
サラディアは勢いよく扉を開けた。
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