第28話 11話
場面は変わって、再びローデンたちに舞台は移る。
打倒ベルクラウスに向けて動き出すことになったローデン、リデル、サラディア。
そのための下準備的な意味でサラディアは宿に残って俺たちのためにベルラティア王国の地図を広げてどういうルートで動いていくのか。シスターが急用でしばらくの間、城の内部はどういう形になっているのかなど事前に知っておかないといけない情報は山のようにある。
「まず、ベルラティア城の内部に侵入するにあたって事前にどういうルートを辿るのかとか、全体の構図は把握しておく必要がある。はっきり言って、何も考えずに力任せに正面突破をしようとすれば、あっという間にやられちゃうから」
サラディアの言う通り、相手は国そのもの。ましてや、邪魔者を排除するためにテロリストを裏で動かしている奴らだ。
ある程度用心していかないと、いざという時はシスターが手を貸してくれるとはいえ、あまりにも無鉄砲すぎる上に、シスターに申し訳ない。
「まず、この国全体の兵の配備されている数だけど、結論言えば城の外には国外の警備兵以外は全く配備されていない。言い換えるなら、城に近づくことだけを考えるなら堂々と正面から入れるほど兵の数は薄い。同時に城の内部は数の暴力で侵入者を抑えられるほどの数はいることを覚悟した方がいい」
サラディアに言われたことで何となくそうなのかなと思っていた不思議な疑問がこれである程度確信に近くなった。
言われてみれば、王国内を簡単に散策しただけでも兵隊らしい兵隊はまともに見当たらなかったし、逆にベルクラウスたちが国内視察を行っていたときは少し過剰すぎるともいえる兵の数を敷いていた。
それだけ外部からの襲撃にも強気に動ける自信があるのか、それともただ単純に自分がいるところに兵を固められるだけ固めておきたいという単純な臆病思考なだけか。
「それだけ城の内部に兵を固められているってことはまともな入口は存在しないんじゃないのか?」
リデルの至極もっともと言える指摘に対して、サラディアは自身に満ち溢れた表情を見せながら回答する。
「そこは安心して、私が普段から使っていた城の内部へと繋がる隠しルートがあるから。そこから侵入すれば、どれだけ内部を兵で固められても問題ないはずよ」
なるほど。
まぁシスターが俺たちに協力させるためだけ以外に殺さなかったとも考えにくいので、おそらくはサラディア自身が自分の隠しルートを通じて城内部の兵隊たちにバレることなくベルクラウスとやり取りをしていたからのあらかじめ予測を立てた前提で生かしたのかもしれない。
本当にそこまで見据えていたのならすごいを通り越してドン引きの境地なのだが。
「そもそも、私たちテロリストの存在は国民はもちろん、王族関係者にすらバレれば政権の崩壊に繋がるから、国を守る兵士たちに私の存在自体知られちゃいけないわけで、秘密裏にやり取りをするために隠しルートの一つを持っているのは不思議な事でもないでしょ?」
まぁ確かにサラディアの言う通りではある。
実際、平和主義を掲げておきながら実は裏でテロリストと内通して人を粛清していたという事実が知られれば、まず死刑は免れない。それどころか、国内で裁判などを行うよりも先に同じ王族関係者の手によってテロリストたちと共に暗殺される可能性だってある。
そんなハイリスクを背負っているのだから、サラディアの言う通り兵士たちに絶対に見られることのない道を用意していてもおかしくはない。
「で、そのルートってのはどこから通るんだ?」
「城の近くにある『IF』って一部の関係者しか入れない高級料理のお店があるんだけどその店の奥に指紋認証でしか入れない扉があってね。まぁこれは行けばわかると思う。その扉を空いた先は一本道になっていて、その道の行った先にベルクラウスがよく使ってる部屋にたどり着く。後はそこからうまく隠れながらベルクラウスを見つけて倒すだけ。私の予想が間違ってなければ、バティス王がいる反対側の廊下に兵の勢力を割くはずだから少数なら、隠れながら動ける。もし予想と違っていれば隠しルートに隠れていればいいし」
サラディアが断言ではなく、予想と言っているところが若干不安ではあるがずっと裏で王族関係者にバレないようにベルクラウスという接触で来ていたという事実からもかなりの自信があるのだろう。
サラディアの説明に対してリデルが不満と不安を入り混じらせるのもわからなくはない。俺も本当にこれで行けるのかという不安はあるが、とにかく今はサラディアの言葉を信じ、俺がやれることをするしかない。
「正直、今の王国は見せかけの平和で成り立っているだけで実際はいつベルクラウスに乗っ取られてもおかしくない状況ってのが私の感想。だから、ある程度想定外なことは起きる事は考慮した方がいいと思う」
「結局は念入りかつ慎重に動けって話か。なんかチラッと外を見たらいつもよりも町がピりついている感じがするし、こりゃあ、近い将来何かデカい出来事が起きそうじゃねえか?」
リデルの言う通り、シスターが出て行ったあと、部屋から見れる窓から街の様子を確認してもみると、昨日までのたくさんの笑顔で賑やかな街並みがどこかぎこちない笑顔でにぎわっているように見える。
幻を見ていると言われるかもしれないが、何となくそう錯覚してしまうほどの雰囲気を感じ取ってしまうのである。
「とりあえず、今日一日はシスターも出かけてていないし、外の様子もあれだから今日一日これ以上にないくらい疲労は取っておこう」
俺の提案に対してサラディアもリデルも反対する素振りもなく、うんうんと無言でうなずく。
「そうね。あの女が言うには、ベルクラウスが総力を挙げて全勢力を挙げてあたしたちを指名手配して兵糧攻めされるよりは明日にでも行動に移して討伐した方がいいって言ってたしね。それにしても、ちょっとやることがあるって言ってたけど、このタイミングでやることって何?」
「さぁな。俺にはさっぱり」
サラディアの疑問に同調するようにリデルが返答する。
間近で接してきた俺ですらもシスターの行動の一つ一つをほとんど理解できていないのだからまだ会ってまもない二人が理解できなくてもある意味当然ではあった。
その後、俺たちは宿が特別に用意してくれていたご飯を食べながら1日中部屋の中で過ごした。そして、その日の夜に明日の朝、行動する事を決定するとそのままシスターの帰りを待つことなく、俺たちは部屋の鍵を閉めて眠りについた。
俺たちが眠りについてしばらく経った後、シスターが自分の血で作った鍵を持って帰って来た。
「少し時間はかかりましたが、これで準備は整いました。後は、ローデンたちの作戦がうまくいくのを見守るだけですね。まぁ、明日には城内も王国内も大混乱に陥ることでしょうけど」
シスターはぐっすりと眠りについているローデンの寝顔を見ながら、赤ちゃんの寝顔を見て微笑む母親が浮かべる笑顔と共に激しく振る雨の後でかき消されるような声で独り言を吐いた。
そしてついに、俺が旅に出てから初めてとなる大勝負が今始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます