第27話 10話
そして時は変わってベラルティア城内にあるとある王室。
そこには二人の男性が王族専用の椅子に座って互いに片手にワイングラスを持って話していた。
「ベルクラウス。一体いつまでこんなことをするつもりなんだ?」
一時的な静寂をはねのけるように、口を開いたのはベラルティア王国の王様であるバティス王。
そして、話し相手はそのナンバー2であるベルクラウスだった。
この国の頂点に君臨していると言ってもいい二人が誰もいない密室かつ上級王族専用の部屋で不穏な会話を繰り広げようとしている。
「いつまでも何もここから先、ずっとだよ。むしろ、俺がこうして裏で手を汚してやるおかげでお前が国民から慕われる王様に慣れているという現実にもっと感謝の意を述べるべきだな」
いつもより若干不安げな顔を浮かべながらワインを飲むバティス王とは対照的に機嫌よくワインを口に流し込んでいるベルクラウス。
これだけを見ればどっちが王様でどっちがナンバー2なのかとても見分けがつかない。
「そ、そうは言っても。君が行っている行動はここ最近、あまりにもやりすぎじゃないのか。つい最近だって、いくら向こうにも非があったとはいえ、視察の妨害をしてきた少年を捕まえるだけで良かったはずなのにわざと見逃した後、その日のうちに殺し屋を使って秘密裏に始末しようとするなんて……」
バティス王が罪悪感を隠し切れずに正直な気持ちを吐露した直後、ワインを堪能していたベルクラウスが突如として持っていたワイングラスを地面に投げつけると、立ち上がって座っていたバティス王の胸ぐらを掴んだ。
「あんたは俺のおかげでこの国の王になれたって恩を忘れたわけじゃないよな? 元々あんたは王様候補ではなく、別にいた先代の王様の息子が継ぐ予定だったのを俺が裏で工作して息子を始末して、先代も薬を仕込んで早めに病没させてやったのに今更たかが自分たちに刃を向けてきた子供を殺すことに対してビビっているっていうのか?」
この部屋が特殊な防音仕様でできている関係で外にこの会話の内容が漏れる事はないとはいえ、それでも本当は外に声が聞こえてしまうのではないかと思ってしまうほどベルクラウスは声を荒げた様子で警告していた。
普段は王族同士の会話も含めて、そこまで感情的になる素振りを見せてこなかったベルクラウスがここまで怒っている様子を見て、バティス王は身の危険を感じたのと同時にすぐに自身の発言を取り下げた。
「わ、悪かった。ちょっと私も正直に言い過ぎてしまった」
「わかってるならそれでいい。所詮お前は成り上がりで王になったのではなく、操り人形としてただ持ち主に都合のいいように利用されるだけの存在だ。それを忘れるなよ。万が一下手な動きをしようものなら……お前を殺して俺がこの国の王になる」
ベルクラウスは最終警告に近い言葉を言い残し、足早に部屋を出て行った。
どっちが王様でどっちが部下なのかこの光景を見る限りではまずベルクラウスが王でバティスがナンバー2のようにしか見えないだろう。
しかし、実際は逆でバティスが王でベルクラウスがナンバー2という事実。
どれだけバティス王が正論を含めた自分の主張をしようとしたところで、利用しているベルクラウスがそれをねじ伏せられ、最後にはこの世の人間とは思えないほど惨殺に殺される可能性が高い。
せっかく悲願の国王の座につけたものの現実は恐ろしいほど残酷でかつてバティス王自身が掲げていた理想の政治からは遠く離れたいいように利用されるだけの傀儡政権としてただ時間を無駄に過ごしていくばかりであった。
「私は、こんなことをするために国王になったはずじゃなかったのに……。あの時、目先の欲に飛びついていなければこんなことには……」
誰もいないこの部屋で心霊現象が如く、か細い声で独り言を呟いたバティス王の顔は全てを受け入れた虚無の表情をしていた。
それとは対照的に、王室から出てきたベルクラウスは自分の部屋に戻って書類の仕事をさばきながら小型の通信機で外には聞こえない程度の声でやり取りしていた。
「そうか。サラディアは任務に失敗したようか。まぁいい。今回の任務は元々、ある意味捨て任務だったからな。達成できれば万々歳。万が一、失敗しても反乱分子になりえる可能性のあるサラディアが消えてくれるならそれでも問題なしといったところだ」
ベルクラウスとやり取りをしているのは自分が裏で操っているテロリスト組織のリーダーである。
自分が裏でテロリストと繋がっているという事実を聞かれたくないのか部屋のドアにしっかりと鍵をかけている。話し相手の男も変声器で少し声を変えた状態で話している。
「失敗した任務は遅かれ早かれ俺自身の手で片付ける。お前は自分の部隊を利用して、俺の本性に勘づいていそうな人物たちの始末を頼む」
「で、その人物ってのは具体的は?」
「一人はバティス王の令嬢であるホムラ。そしてもう一人はそのバティス王だ。まぁホムラに関しては正直、こちらの正体に気付いているわけでもないから別に生かしておいてもいいのだが、この国の中では最上位クラスの権力者。余計な面倒を増やす前の保険だ。本命はバティス王の方だ。あいつは今でこそ俺にとって都合のいい傀儡政権になっているが、今日の様子を見るに、そう遠くないうちに俺の知らないところで秘密をばらされるリスクがある。あいつは俺が操る駒としては十分に良く働いた。だが、もう潮目だ。バティス王を殺し、同時に次期国王としてナンバー2であるこのベルクラウスがトップに就く」
ベルクラウスは自分の奥底に描く野望を頭の中で浮かばせながら充実した表情で語る。
ベルクラウスにとって、表向きにはこの国のトップの座に就くことに対してそこまで興味のない素振りを見せているが実際は全く違う。
過去にこの国の王族関係者がベルクラウスにしてきた仕打ちも含め、ずっと心の奥底で自分がこの国のトップに就いて独裁による支配を目論みたいという野望を抱き続けていた。
「殺し方はこちらの自由で?」
「ホムラは自由、バティス王は世間に病死という形で公表したいので即効性のある毒ではなく、時間差で殺せる毒による毒殺で頼む。先代の時と同じ手口だ。報酬は任務が完了次第、それ相応の金額で支払うつもりだ」
「わかった。目的が果たせ次第、またこちらから電話する」
そう告げると、テロリストのリーダーは通信機を切った。
通信機の音が切れたのを確認すると、同時並行で進めていた書類を仕上げ、鍵付きの棚の中に小型の通信機を隠した。
その後、後から入ってくる人たちのために部屋の鍵を解除する。
そして、再び自分の座っていた椅子に戻ろうとする際中、思わず本音がこぼれだす。
「ようやくだ。ようやく王の座に俺が就ける。どこの誰かは知らないが、俺に力を与えてくれた『吸血族』と名乗った黒いフードを被った赤い髪の女には感謝せねばならないな。神は俺に追い風を与えてくれている。このチャンス、逃すわけにはいかない」
国のトップに就くというベルクラウスの悲願が、ついにやって来ようとしていたのだ。
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