第26話 9話(2)
「わかったわ。あんたの言う通り、ベルクラウスと戦うことに協力してあげる。その代わり、あんたの目的くらいは教えてくれてもいいんじゃないかしらね?」
サラディアは自分が俺とリデルと共にベルクラウスと戦うことを了承すると引き換えに、シスターの裏に潜む本当の目的について聞き出すことを要求してきた。
これはサラディアにとっては至極当然の要求でもあり、何の見返りもなしにシスターの要求を素直に飲むことは自分が生き残る以外のメリットがあまりにもサラディアにとってなさすぎるからである。
俺はシスターの目的が自分と同じ『吸血族』を根絶やしにすることが本当の目的だと思っているが、今回のベラルティア王国の話に限って言えばベルクラウスが『吸血族』に関する何かを知っている可能性があるくらいしか情報がなく、それ以外の人物で『吸血族』である可能性のある人物は現状俺の頭で思い浮かんでこない。
そんなサラディアの要求も見返りを求めてくることを想定していたのか、シスターは怒りや不満などの感情を何一つ見せることなく、冷静かつ淡々とした様子で答える。
「それはサラディアがどの程度ローデンたちと協力してくれるか次第です。それがわからない以上は私の口から目的を言うつもりはありません。まぁそう遠くないうちに作戦を遂行している内にわかると思いますけど」
シスターが具体的な内容を言うつもりがない口ぶりにシスターの言いなりになることに対して感情を制御し続けていたサラディアが次第に抑えきれなくなり始めていた。
「はぁ!? 作戦に協力するだけしてあたしに対しての見返りはなし? ブラックすぎるだろ! 金や権力などを求めるわけでもない、ただベルクラウスを討とうとする理由を聞いただけなのにそれすらも言いたくないのかよ」
シスターに尋問させられていた時はここまで感情的な言い方はしてこなかった。
だがまぁ、シスターに対して感情的に肩入れしていることを除けば確かにサラディアの言っていることは確かに理解できる。
とはいえ、俺に対してすらも自分が『吸血族』であることを言いたくない素振りだったことを見ても、シスター自身が他人に自分が『吸血族』であることを言いたくないというのもわからなくもない。
そんなある意味正論に近い主張を言ってきたサラディアに対して、シスターは対照的に全く感情や表情を崩さずに答えた。
「ヒントというわけではありませんが、私の目的はあなたが思っている以上に黒いものとだけ教えておきます。それに、これはリデルにも同じことが言えますが、遅かれ早かれベルクラウスと直接相対するのであれば、私のことについても知る機会があるはずです。これから戦う相手がそういう奴らなので」
またしても肝心の内容についてははぐらかしてきたのだが、サラディアは感情的な素振りを見せず、妙に納得した様子に変わっていた。
シスターのどうしても言えない心情をはぐみとったのかこれ以上踏み込んでくることはしなかった。
「あっそ。まぁそこまで頑なに話す気がないなら、仕方ない。世の中、絶対に人には言えない嘘や秘密が存在するってのはよくある話か。ベルクラウスを討つための城の案内はあたしに任せてくれ。城内の見取り図はある程度全部頭に叩き込んでいるから」
「期待してますよ。作戦や動き等についてはローデンたちと話し合って決めてください。私はあくまでベルクラウス討伐に対しする最低限のアシストをするにとどめます。私一人が目的を果たしても、ローデンたちの成長には繋がりませんからね。どのように動き、どのようにして戦うのかも含めて全て自分の頭で考えていく必要があります。まぁこれは、これから先の人生にも通ずることではありますが」
シスターは一貫して俺との旅において基本的には『吸血族』関連の話以外はあくまでサポートに徹する姿勢は変わらない。
多分、シスターはここから先、自分と同じ『吸血族』と戦っていく上でシスターだけの力に頼らずに俺の力も必要になってくると考えているのかもしれない。
それに、シスターの力だけに依存するのは旅を進めていくのはシスター自身に余計な負担を増加させることにも繋がる。
「あんたが作戦に一切口出してこないのは意外ね。あんたの性格なら、あたしに全部作戦を丸投げすることなく用意周到に自分の考えていた計画をそのまま伝えてくるもんだと」
「私は自分の仲間を容赦なくただの駒として扱うことしか考えていないほど、性根は腐っていませんから。それに、そこにいるローデンは私の数少ないパートナーで、彼の成長の見届けるためにこうして旅を始めたのですから」
シスターの言葉はいつも以上に優しさに包まれた温かい言葉だった。
まだ確定したわけではないとはいえ、本来は自分と同じ血である『吸血族』という憎い存在を滅亡させるために偶然生き残った俺と共に『旅』を始めたのと思っていたが、実際は俺との『旅』でちゃんと仲間を作ろうとしていたり、どうすれば俺にとっての成長に繋がるのかなど色々と配慮してくれていた。
あくまでシスターから提案してくるのは選択肢を与える事だけ。
そこから先、その中から選択肢を選ぶのか。それとも新しく自分の選択肢を作るのか。
傍から見れば必要最低限のサポートであっても、シスターはまだあらゆるところで未熟な存在である俺を一人でも問題なく生きていけるための準備をしてくれていると今は思っている。
リデルを仲間として考えてあげるかどうかの判断を俺に委ねたのも、ここから先を見据えて互いに支えてくれる人がいるに越したことはないと思ったからこそなのかもしれない。
だからこそ、俺はリデルと今回協力してくれることになったサラディアと共に成長のための最初の試練としてこの国を腐敗させているベルクラウスを倒すという一つの壁を突破する必要がある。
「シスター。俺、リデルとサラディアさんと共にベルクラウスを倒します。これ以上、正教会の子供たちのように理不尽に奪われていく命を黙って指をくわえたまま見たくないです」
これは俺の決意表明でもあり覚悟でもある。
相手はベラルティア王国のナンバー2であり、裏でテロリストを操って独裁政権を樹立しているベルクラウス。
ある意味、国そのものを相手にする時点で腰が引けてしまっても仕方のないことである。
それでも、シスターがこうしてベルクラウスを倒そうという提案をしたのは『吸血族』に関する情報を探りたいという思惑があるのと同時に、俺にとっては乗り越えないといけない最初の試練だからこそである。
「皆さん、検討を祈っています。私も神様に祈りを捧げます」
こうしてついに、ベルクラウスを敵として動いていくになる。
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