第25話 9話(1)
「え、えぇ!? きょ、協力って。どういうことだよ、シスター!」
「そ、そうだ! 確かに俺は殺された両親の無念を晴らすために協力するとはいったが、なんで俺を殺しに来たこの女と協力しないといけないんだよ!」
シスターからの提案に俺もリデルも思わず、感情的に反論してしまう。
むしろ、このタイミングで俺とリデルとサラディアと3人で協力して城内に忍び込み、一連の事件の黒幕であるベルクラウスを倒せというのはあまりにもいきなりかつ高難易度すぎる。
そんな様子を間近で見ていてもなお、特に何か思うこともなく、むしろ自然で子供たちに向ける笑顔を浮かべながらなぜそのような提案をしたのかについて説明し始める。
「もちろん、私が何の計画性もなくこのような提案をしたわけじゃありませんよ。まず、私たちがベルクラウス相手に戦おうにも真正面から殴り込めばあっという間に私たちは国家転覆を企む反逆者。下手をすれば、私たちに対してベルクラウスが武力行使を行ってもいいというきっかけを国民に対して同調圧力のような形で実行に移すことに繋がりかねません。そうなれば、私はともかくローデンたちが命を落としてしまう可能性も十二分にあります。それに、必ずしも相手がベルクラウスだけとも限りませんし」
シスターがわざわざ俺も含めたここにいる三人で協力しろと言ったのは、相手がこの国そのものであるということを考慮に入れた上でのことというわけか。
さらりと自分ならまず生き残れると堂々と発言した部分を見ても、シスターの力そのもの底が見えてこない。その圧倒的な実力を目の当たりにしている俺にとっては尚更嘘じゃないと確信づいてしまうほど。
「それに、そもそもローデンたちが直接ベルクラウスと戦うにしても城内の構造を把握していなければ道中で迷子になって、遅かれ早かれ四面楚歌になって黒幕の首は打ち取れないでしょう。もっとも、私一人ならそのベルクラウスとやらが相手でも何の問題もなく解決するのですが、それではローデンたちの成長に繋がりません。だからこそ、ベルクラウスに接触経験があるサラディアに城へと繋がる裏口から侵入してもらうなりしてもらうことにしたんです。人間、成長するためには挑戦し続けることが大切だとよく言いますが、それもある程度具体的な計画性などがしっかりあった上で初めて成長へと繋がりますから」
シスターがわざわざサラディアをあの男たちのように容赦なく殺さずに生かしておいたのは情報を聞き出すことは当然として、それとは別にサラディアを城内で動き回るための案内役として俺とリデルと協力させる目的もあったということだろうか。
実際、なぜ自分が協力しなければいけないのかと不満の声を上げていたサラディアがシスターの話を一通り聞き終わった後、明らかにさっきまでの態度と違っていたのがその証拠でもある。
「なるほど。あんたがなんで情報を聞き出したあたしに対してすぐに捨てる事なく、こいつらと協力させようとしてたのはあたしがこの国の裏で暗躍しているテロリスト関係者であることを承知の上で道案内させるためってことね」
「別に拒否という選択をしてもいいんですよ? まぁそれを選んだ瞬間、気が付けば三途の川の星となっているでしょうけど」
「それは選択肢とは言わないんだけど……。まぁ実質的にあたしには素直にこいつらと協力する以外の選択肢がないわけね」
「理解が早くて助かります」
俺たちと協力するという一定の自由は与えつつも、下手な動きをすれば容赦なく命を奪うということをしっかりと釘刺しているのは本当に念がない。
というか、これまでの動きを見ていればまずどこかの教会内で神様に祈りを捧げているシスターたちと同じとは到底思えない。
表も裏の世界も操る恐ろしいほど手慣れた政治家のようである。
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