第24話 8話(3)
「なるほど。つまりは私たちのいたヴァンロード聖教会の襲撃の件や王族たちによる視察を妨害したリデルを殺せと指示したのはそのベルクラウスだと?」
「前者は私が担当した訳じゃないから本当の事は知らないけど、あたしの仲間がそのようなことを言っていたから多分そう。後者はあなた達の察しの通り。これで理解した?」
「とりあえず、あなた達を指示した黒幕がベルクラウスなのはわかりました。しかし、今の話を聞いているとなぜ私たちを狙ったのかがわかりません。ベルクラウスの目的が一体何なのか、あなたに心当たりは?」
シスターの質問にサラディアはキッパリとした口調で視線を合わせた状態でこう答えた。
「さぁ。あたしはあくまでそいつから命令されたことに対してただ粛々と従っていただけだから。ただ、聞いた話じゃ聖教会の一件に関しては吸血族? がどうとかいう話を耳にしたことはあるかな。どういう話なのかはわからないけど」
サラディアの言葉を聞いたシスターの頭の中は、それまでバラバラに散らばっていた点たちが一つ一つ線となって繋がっていく。
まだ具体的な理由や目的など全てが明るみになったわけじゃないが、それでも大筋の状況をある程度つかめただけでも十分な収穫と言ってもいい。
「最初のヴァンロード聖教会の襲撃の目的が『吸血族』関連の何かで、今回のリデル暗殺が自分たちの視察を妨害されたものによるもの。しかし、後者はリデルの話を基にすると自分の父親が過去に商人をやっていた関係で王族たちと接触していたが故に、裏で王族たちがテロリストという名の軍を操っていることを知った父親が6年前に口封じで妻と共に消された。そして視察の際に横槍してきたリデルが自分たちの殺した商人の息子であることを察知した主犯格のベルクラウスが自分たちの実態を明るみにされるよりも前にサラディアたちを送り込んで殺害しようとした。こんな感じでしょうか」
シスターの推理はこれまでの話を整理した上でベルクラウスが黒幕であるということを考察する上である程度納得のいくものであった。
俺自身、シスターの推察を聞いて納得のいくところも多く、なぜシスターが『吸血族』であることを知っていたのか、国を乗っ取ったことによる本当の目的などまだ完璧に謎を晴らしきったわけじゃないが、これで俺たちがベルクラウスを明確に敵視できる理由が出来たと言ってもいい。
「そのリデルってやつが言っていたことがどこまで本当かあたしが知るわけもないけど、ベルクラウスが王国内を完全に掌握したのが確か6年前くらいから。もしかすると、王国内に潜む反逆者たちを手当たり次第粛清していた被害者だったのかもね」
シスターの推理も含めてここにいる俺たちが80%くらいで濃厚だと思っていた可能性がサラディアの口から出てきた証言によって100%の確信へと移り変わった。
本来であれば、自分たちを殺しに来た奴の言葉を素直に信じるのかという声も当然あるだろう。しかし、俺にはサラディアの言っていることに嘘はないように感じた。
シスターから後で人を簡単に信じすぎと言われるかもしれないが、何となくサラディアが根はそこまで残酷なテロリストのようには見えない。ヴァンロード聖教会襲撃で大暴れしてきたあの男たちの様子をこの目で見ているからこそ猶更そう思う。
ましてや、シスターが自分の血で錬成した血の剣を喉元に突き付けられている現状でも自らの命を犠牲にしてでも嘘をつく余裕があったようには俺の目は見えなかった。
いや逆か。もしサラディアが自分の命すらも顧みないテロリストなら多分、俺がこうして目を覚ますよりも先に真っ先に殺している。
底知れないシスターが脅しで済ませているからこそ、サラディアが本当のことを言う算段が高いと俺はそう考えている。
シスターは聞きたかった話を一通り聞き終わったのか、血の剣を解除し、こちらも血で錬成して作ったものと思われる血の縄も解除した。
この行動を予期しきれていなかったのかサラディアは不意を突かれたように驚いた表情を見せた。
「どういうつもり? まさか本当にあたしを活かして逃がすつもりなの? 自分で言うのもあれだけどあんたたちを殺しに来たあたしを」
当然の反応だろう。
命令とはいえ、シスターを含めた俺たちを殺そうとした連中に対して、情報を吐かせるだけ吐かせた後にそのまま始末するわけでもなく生かすという選択をしたのはベルクラウスに俺たちの情報を伝えるという可能性も十二分に考えられる。
しかし、シスターの口から俺の考えとは全く違ったものだった。
「いえ、あなたを生かしたまま帰すわけではありません。ここから先、本当に自分が生き残れるのかどうかはローデンたちとの協力次第になりますね」
「? どういう意味だ? あたしらがこいつらと協力するって」
「簡単です。サラディアのテロリスト関係者という伝手を利用して、ベラルティア城に潜入し、黒幕であるベルクラウスを討伐してもらいます」
シスター以外、ここにいるほぼ全員がまず間違いなく予想していなかったであろう提案をシスター自身がしてきたのである。
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