第22話 8話(1)
そこにいる見知らぬ大人の男性と女性は誰だ。
ここは一体どこなんだ。
目が覚めると、そこは全くどこかも知らない真っ白な世界。
目の前で立っている大人の男女は顔が真っ白で隠されているが、体型などを見てもまず間違いなく知っている人間ではない。
さらに、辺りを見渡しても隣で寝ていたはずのリデルもシスターもいない。
まさか、ここは夢か?
「あの、あなた達は一体何者なんだ? そしてここはどこだ?」
とりあえず、何も状況を理解していない以上はここにいる人たちに聞くほかない。
しかし、俺の質問にも特に両者ともに答える素振りはなく、一言も言葉を発することなく背を向けると、そのままこの場を去ろうとしていた。
「お、おい! ちょっと待ってくれ! 何も教えたくないのならせめて、ここが本当に夢かどうかだけ教えてくれないか!」
俺は必死に後を追いかけようとするがその背中が意図的に遠ざけさせられているように離れていく。どんなに必死に追いかけてもその背中に追い付くことも、しまいには見つけることすらできないほどまでに遠くに消えていこうとしていた。
その時。俺の視界が突然赤い炎に包まれ、謎の人物も苦しむ様子もなく、炎に包まれていった。辺りを見渡して見ると、死んだはずの子どもたちの姿もいた。
「い、生きていたのか!」
俺は後先考えずに炎の中に突っ込みながら駆け寄ろうとするも、返事どころかそれを妨害するが如く炎の勢いが強まっていく。
それが引き金となったかのように、炎の威力が次第に強大さをしめし始めている。
その炎はとても夢の中だとは思えないほどの熱が直に伝わってきて、一歩間違えると自分自身まで一生傷が残ってしまいそうになるほどの熱さだ。
そして、俺にとどめを刺すかのように辺りを囲むようにしていた子供たちの体中からバケツを被ったかのようにいきなりとんでもない量の血と思われる液体に覆いかぶさられる。
その姿はもはや人ではない。人の姿を偽ったゾンビであると錯覚してしまうほどだった。
さらにはそれにとどめを刺すように一斉に赤い液体が燃え盛ると、塵になる間際に謎の言葉を言い残した。
「お前の行き過ぎた善意が、いつか取り返しのつかない地獄を生む。それを望まないのであれば、自らの感情を無くし、敵であるものをただひたすらに命を奪い続けろ」
さっきまで子供たちだったとは思えないほど、声は低く、そして二重に聞こえてくる。
その直後、俺の身体も子供たちを追うように燃え始めた。
そして、その結末を見るよりも先に目が覚めた。
先の展開がどうなったのか、そんな漠然としたモヤモヤは晴れる事のないまま恐る恐ると瞼を開くと、目に映っていたのは宿の天井。ではなく、なぜか俺の顔をじっと見つめているシスターの表情。
それまではまだ、わずかに残っていいた眠気も一瞬にしてどこかに行ってしまった。
「え……? えぇ!? シ、シスター!?」
昨日確かにリデルと一緒にベッドの上で寝ていたはずなのに、なぜかベッドから転がり落ちているようだ。
シスターはいつも子供たち相手に向けていた眼差しと落ち込んだ時によくやってくれていた俺の頭を優しくなでている。
「ようやくお目覚めになりましたね、ローデン。ベッドで寝ている最中に何やらうなされていて、その反動でベッドから落ちてしまったようでこうして私が膝枕してあげてるんですよ」
「なるほど。って、膝枕って!?」
どうりで落ちた割に頭が痛くないと思ったらそういうことか。
シスターがわざわざ膝枕してもらっているという申し訳なさもあるのと同時に、シスターの膝枕が言われないと気づかなかったほど居心地がいいものであった。
「ご、ご迷惑をおかけしましてすみません! まさか、こんなところにでもシスターに気を遣われてしまうとは」
「気にする必要はありませんよ。このくらい、旅の癒しとして時には必要ですからね」
本当にシスターは優しい。
とてもあの吸血族の血を引いた生物だとは微塵も感じない。
その優しさを心の中から信じていいのかと時に自問自答してしまうときはあっても、それを完全に拒絶することは俺にはできなかった。
危険な存在だということは自分の中でも十二分に理解しているはずなのに、それを全て包み隠せてしまうほどのシスターの愛情という名の優しさが強大すぎるのである。
とりあえず、膝枕をそこそこの時間堪能した後、既に目を覚ましていたリデルの横に俺の見知らぬ紫色の髪の女の子が赤い紐のようなもので手首を拘束されている。
少なくとも、俺はこの女の子のことを知らないし、見たこともないことだけは確かである。
「あの、シスター。この子は?」
「彼女は深夜にローデンたちを暗殺しようとしたテロリストたちからの刺客です。まぁその暗殺も私がいたので未遂に終わってますが」
さらりと告げられる寝ている間に殺されそうになっていたという事実。
それも、こんなに見た目が可愛い女の子がテロリストの関係者で、それも俺とリデルを殺そうとしていた事実にすぐに現実を受け入れることができなかった。
「テ、テロリストの関係者ってことは、この子も俺たちのいたヴァンロード聖教会を襲撃した奴らの仲間ってことですよね?」
子供たちを殺した奴らの仲間である女の子に対する怒りが全くないと言えば嘘になる。
それでも、今ここで死んだ子供たちの復讐を代わりにこの子に償わせたとして、その子供たちが蘇ることもないし、それは結果的に殺しという名のいつ途切れるかもわからない復讐の連鎖へと引きずり込まれていくのである。
同時に、俺の中には今もなお、自分と同じ人間相手に一度でも手を汚してしまえば、その後の人生で自分に都合の悪い人間が現れれば始末すればいいという選択を取り続けてしまうのではないかという恐怖もあった。
だからこそ、俺はこの女の子がテロリストの仲間であることを知ってもなお、その殺意をグッと止めるように心の奥底に閉まっておくのである。
「その答えは、本人の口から聞きましょうか。サラディアさん」
シスターはあえて腰を下ろし、両手首を後ろで縛り付けられているサラディアという名前の女の子に向かって圧力をかける目で話しかける。
「……」
シスターの要望に対し、サラディアは睨みつけるようにシスターに視線を合わせる。
とても情報を聞き出せる様子ではないのだが、果たして彼女からどのような話を聞くことが出来るのだろうか。
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