第17話 5話(6)

「おい貴様! 我が王様に刃を向けるなど、ベルラティア王国に反逆を企てていると言うのか!」

「うるせぇ! お前らが、お前ら王族共が俺の両親をぶっ殺したんだろうが!」

「貴様~! 我が国王様相手に何という侮辱を働くか!」

何やら、視察最中に男が王様たち相手に揉め事を起こしている様子。

誰がどう見たってあれだけの騎士たちを相手にナイフをちらつかせたところで、一瞬で返り討ちをされるのは明らかなのに、どうも俺の目にはあの男がとても嘘を言っているようには見えなかった。ただの勘だろとか、ただのお前の見込み違いだと言われても俺は彼がただの荒らし役として権威の高い王族たちに刃を向けたわけではないとそう感じてしまう何かがあった。

俺は誰にも聞こえない声の大きさでシスターの耳元に語りかける。

「シスター。俺、あの人を助けてもいいですか?」

「一応、なぜ彼を助けたいのかの理由を聞いてもよろしいですか?」

意外にもシスターは今この状況で直接王族相手に立ち向かうことに否定する様子はないようだ。

いや、そもそもシスターは『吸血族』関連の話題以外には割と寛容なので、俺の意見が伝われば理解も納得もしてくれるはずだ。

「俺、さっきシスターが言ってたことを含めた上で、何となくですけど、あの男の人がただ自暴自棄になってこんなことをしているようには見えなくて。それに、俺は目の前でリンも含めた仲間を救えたかもしれないのに救えなかった。この先、もう自分の目の前でお世話になった人を死なせたくないんです」

ちょっと強引かもしれないがとにかく、俺が目の前で誰かがピンチになっているところを助けたいという想いは伝わったはず。

その思いが伝わったのか、シスターは特に反論や不満を見せたりすることもなく、いつもと変わらない微笑みを浮かべて返答する。

「なるほど。ローデンらしいですね。いいでしょう。今まさに騎士たちに捉えられそうになっているあの男の人を助けてあげなさい。いざという時は私も協力します。それに、王族たちと過去に何かあった人間から話を聞くことで何かわかるかもしれません」

シスターから許可も取れたことで、俺は騎士たちに攫われようとしていた男を助けるため、民衆を強引に掻き分けながら飛び出した。例え、どんな人間にも救いの手を差し伸べるお人好しとも呼ばれていい。とにかく俺は、助けられる人は助けたい。それだけだった。

「くそ! はなせ! や、やめろ!」

「うるさいガキだな! 我が国王様たちに歯向かった罰としてきっちり懲罰房でしごいてやる!」

屈強な騎士たちに連れ去られようとする様子に三人の王族たちは怒りなどの思い浮かべる様子もない。

そんな異様な光景の中で、俺は騎士たちの後を追うような形で姿を見せる。

「待て! 俺はそいつに話がある。罰を与えるのならその話が終わってからにしてほしい」

傍から見れば、俺はナイフを持って王族を襲おうとした男の仲間としか思えないだろう。

下手をすれば、俺も彼と同じように謀反人として連れて行かれる可能性もあるが、その時はシスターが何とかしてくれるだろうと何となく楽観的に考えている。

「おいお前! だれかは知らねぇが関係のない奴はとっとと引っ込めよ!」

「きっさま! 我々の行動に異を唱えるのは国家転覆とみなし、死刑としてやってもいいんだぞ!」

男の声はまさに至極真っ当な意見である。

そして、近くにいた騎士の一人の意見も言い方はともかく、まぁ内容は間違っていない。

むしろこんな風に俺が突っ込んでくる方が異常なのである。真の善意なのか、それともただ目立ちたいだけの狂人なのか。

男を取り押さえている騎士とは別の護衛をしていた騎士たちが、俺を取り押さえようとするがここで予想外の事態が起きる。

「待て。今回の目的はあくまでこの国の視察だ。国民に手荒い様子を見せるわけにはいかない。ここはそこの男の言う通りにしてやれ」

騎士たちを制止した声の持ち主は、眼鏡をかけた王族の一人。

俺自身は護衛の騎士とも戦うことを覚悟していたので、この展開は想定外である。

「し、しかしベルクラルス様! このような反逆人を野放しにしていては国家の治安が」

「これはベルラティア王国のナンバー2であるベルクラウスとしての命令ではない。あくまでそちらにいるこの国の国王「バティス王」からの命令だ。文句のあるやつは王様直々に反論することだ。ちなみに、そちらにいるホムラ令嬢もご了承いただいている」

「ごきげんよう」

口調といい振る舞いといい本物の令嬢という雰囲気を改めて醸し出している。

「お、王様が言うなら仕方がありません。ほら、今回は特別に見逃してやるが、次同じ真似をしたら容赦しないぞ」

男を取り押さえていた騎士たちは露骨に不満を示しながらもナイフだけを取り上げ、手放した。

ご丁寧に3人の王族の名前も聞くことが出来ただけでなく、ナンバー2と名乗っていたベルクラウスから直々に俺の方へと駆け寄ってくる。そして耳元に顔を近づけ、誰にも聞こえないレベルの小声でさっきとは一変した口調で話し始める。

「あなたが何者なんか存じ上げませんが今回は特別に見逃してあげます。ただし、この男の後始末は任せましたよ。後、もしなんかの勘違いで我々に楯突こうとするなら……誰にも騒がれないように始末してやるからな。それでは」

それだけを言い残し、ベルクラウス含めた王族たちは中断していた王国の視察を再開した。

はっきりとわかる。

ベルクラウスはあの男を含め、今回は特別に見逃したのではない。表立って国民に残酷な血を見せないようにあえて見送っただけに過ぎない。

それは遠くで見ていたシスターも薄々気づいている様子だった。

俺は腰を抜かして動かない様子の男に肩を乗せ、そのまま逃げるようにこの場を去って行った。

そして、この一件をきっかけにベルラティア王国が大きく揺れ動いていくことになる。

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