第9話 3話(4)

「はずだった、ということは今現在の状況が異なっているということですか?」

「えぇ。最近になって、吸血族たちによる動きが活発になっていると今は偵察中ですが、私のペットが伝えてくれましてね。ついこの間も、少し食べ物を買いに近くの王都に寄った時に私と同じ血の匂いがする人間がいたことで確信に変わりました。それも、王国の関係者が『吸血族』の血を持っている可能性が高く、事の状況は思ったよりも良くないようです。このまま、放置しておけば近い招待、吸血族による反乱が起きてもおかしくないでしょうね」

シスターが定期的に食材などを買いに近くにあるベルラティア王国に出かけていたことはシスターから聞かされていて、今日襲撃があった時もシスターが出かけていた理由はベラルティア王国に買い物しに行くことだったが、まさかそこでシスターと同じ種族の人間がいたとは。

「シスターの言う反乱って言うのは何を意味しているのですか?」

「簡単に言えば、自分たち以外の種族の『殲滅』ですね。元々、『吸血族』は自分たち以外の種族に存在価値はないと言われるほど崇高なプライドを持っていて、もし殲滅し逃れた生き残りがいれば遅かれ早かれ、『吸血族』たちによる他種族の虐殺は行われるでしょう。まぁ、私はそんな常軌を逸した彼らのやり方に呆れたんですが」

なるほど。

ようやく話が見えてきた。シスターが自分と同じ『吸血族』を殺そうとする理由は、彼らの逸脱したやり方を止めるため。でも、同時にそれを実行するのであれば、わざわざ人間やエルフなどからを殺してまで血を奪う必要はないのではないかというもの。

本当の真意も含めて肝心なところをはぐらかされている印象があるが、これ以上に踏み込んで質問することで知ってはいけない真実までわかってしまうことまで明かされるのではないかという恐怖でできなかった。

シスターの話は続き、今度は俺の自覚していない本性についても語り始める。

「まぁ私の目的は『吸血族』を殺すこと。という認識で今は大丈夫ですよ。そして二つ目、ローデンの自覚していない本性についてです。その前に一つ、聞いておきたいのですがローデンは今、何かやりたいことはあるのですか?」

シスターの質問はありきたりで実にシンプルなものだが、人によって回答が全く異なる内容。

同時に、シスターからの質問に対し、俺は具体的な答えを用意することが出来なかった。

「そ、それは……わからないです」

当然である。俺は孤児として拾われ、同じ境遇の子どもたちとずっと何か不自由や不満なく平和に過ごしてきた。俺以外の子どもたちも特にこれといった目標や夢、やりたいことなどを持つことなく、良くも悪くも安定した日々を送っていたことで自分が何かやりたいという探求心がなくなっていた。だから、シスターから自分は何がやりたいのかと言われた瞬間にすぐに回答することが出来なかった。

「ローデンの言葉通り、ローデンはずっと教会内で時を過ごしたこともあって、本当の意味で外の世界を知りません。まぁ私があえて子供たちを危険な目にあわないように遠ざけていたというのもありますが、結果的に自分自身で目標を抱くことなくただ漠然と時間過ごしていた。しかし、そんな呪縛は今回の一件で炎と共に燃え去りました。私も子供たちが死んでしまったことに一定の悲しさはありますがそれはもう変えられない真実です。ここから先、適合に成功した混血による力も含めてローデン自身がどういう道に進んでいくかは自由です」

「そ、そうは言われても……」

シスターの言葉には確かな説得力があった。実際、仮に聖教会が襲われず、シスターの部屋に勝手に忍び込まなければ、俺はのどかに血の争いに巻き込まれることなくそのまま生涯を終える可能性は十二分にあったし、俺もこのままの日常が続けばいいと思っていた。

しかしそれも、その野望が見事なまでに砕け散り、自分自身が今後どうしたいのかわからないまま現在に至っている。

シスターから改めて指摘されて初めて自覚したのである。

「まぁそれも含め、こうして新たなリスタートとして旅という選択肢を与えているんですけど。ということを前提で私からの提案があります」

シスターからの提案。

このまま俺自身がやりたいことを考えていても何も思いつかないのが目に見えていたこともあり、シスターの提案を静かに聞く。

「私の目的である全ての『吸血族』の絶滅の協力をしながら、ローデンのやりたいことを探す旅をしませんか? やりたいことは一つに絞る必要はありませんし、ローデンのしたいことにはできる限り答えます。共に参りましょう。やりたいことを見つけ、ローデン自身の夢の先にある自分自身の存在に対する答えを探す旅に」

シスターの提案を聞いた直後、俺は間髪入れることなく返答する。

「もちろんです。シスターに指摘されて初めてわかりました。俺には自分が何をするために産まれたのか、自分が本当にやりたいと思っていることが何かもわかっていませんでした。だから、俺はシスターからもらったこの力で自分自身の答えを探しに行きます。よろしくお願いします。シスターヴァンティア」

俺だけでは決して決断することが出来なかった選択を、シスターから与えてくれたことにどこかホッとしている自分がいる。

この旅の始まりは子供たちの無念を晴らすためのものじゃない。

俺自身の人生を大きく変えるためのシスターと2人から始まる大冒険を告げる汽笛なのである。

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