第4話 2話(2)

「シ、シスター……!」

俺もリンも男の首を持ったシスターの姿がいつもの優しい天使のような姿ではないことは一瞬で悟れた。

今にして思えば、シスターの目を盗んで専用の部屋に入った時の異様さは現実という形で顕現したわけだ。

俺たちとは対照的に、武装した男たちはシスターの狂気的な登場にもある程度予測がついていた様子で身体をシスターの方へと向けた。

「おいおい。ようやく本命がお出ましか。俺たちの目的はあんたの首だよ。吸血族さん」

吸血族。

俺はリーダー格の男からの『吸血族』という言葉を聞いてあの部屋で見た光景は真実であることを完全に認識した。

シスターの部屋で見たものだけではない。この男が『本命』という表現でシスターのことを含めて、アルバムの最後に挟まっていたメモ用紙に書かれた


「私はこの世界に存在してはいけない、『吸血族』だから」


という文言にも一気に信ぴょう性が増した。

「ローデン。リン。全員を助けることができなかったことを謝ります。その代わり、償いというわけではありませんが、2人が見てきた地獄からほんの少しばかりの救いを与えましょう」

右手に持っていた男の首をごみ捨ての感覚で捨て、右手でパチンと指を鳴らす。

その直後、リンと俺を抑えていた男たちから大量の血が溢れ出した。

あまりの突然すぎる状況に男たちが自分から手を反した状況になってもなお、その場から動くことが出来なかった。

「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁ!」

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

リンを抑えていた男は首付近から、俺を押さえつけていた男2人は腹部や背中からそれぞれありえない量の血が出ており、シスターがどうやって攻撃したのか想像もつかないまま悲痛な叫びを挙げ、その場で力尽きた。

辺り一面がちょっとした血溜まりができており、得に何か魔法を使った訳でもないシスターの恐ろしさがより一層際立つ。

「流石だなぁ。初めて吸血族の技をこの目で見たが、想像以上だ。伝説と言われたどんな種族のありとあらゆる血を操る吸血族。俺が連れてきた下っ端程度の奴らではこの様も仕方あるまい」

「いえいえ。褒められるのはありがたいことですが、私の力はずいぶん昔の頃に比べればまだまだですよ。そういうあなたは、死んでいった人たちよりも強いのでしょうね? 人間という生物は一部を除けば大したことありませんから」

最後に生き残った男とシスターの会話は一見すれば互いに精神的な余裕を感じさせる。

しかし、圧倒的な力で周りの男たちを軽くひねらせたシスターとは対照的に、一人残されたリーダー格の男は内心とても穏やかではなかった。

そして、その見えない焦りは男を死へと確実に近づけていた。

「本来、俺達の目的はここのガキたちを脅すなり殺すなりして、ここをぶっ壊した後にお前をおびき寄せるのが目的だったんだが……。予定を変更して、ガキは後回しだ。伝説の『吸血族』の首。この俺が奪い取ってやるよ!」

男は強気な姿勢を崩さない状態で右手を前に向け、俺を攻撃したのと同じ系統の魔法を放とうとする。

しかし、その時間でさえシスターが男に致命傷を与えるには充分すぎるものだった。

シスターが男に向かって人差し指と中指を揃えた状態で、軽くチョップをする感覚で横に腕を振る。すると、向こうが魔法を撃つよりも先に、男の腹部から刀で切られたような傷と出血が襲い掛かる。

さらに、シスターは念を入れるように今度は右手の指をきれいに揃えた状態で縦方向に腕を振り下ろすと、男の右腕が見事に切断された。

「う、うがぁぁぁぁぁぁぁ!」

男は切断されて出血が止まらない部分を左手で庇いながらうずくまる。

ほんの10分前までは地獄の底に片足を突っ込んでいた状況が一瞬にして形成がひっくり返った。

男とは対照的にシスターは人の苦しむ顔を見るのを楽しんでいる様子。

そして、行きつく間もなく男のところに瞬間移動並みの速さで接近すると、そのまま左手で男の首をガッチリと掴んだ。

シスターは首を掴んだ状態でゆっくりと少しずつ力を入れながら上へと持ち上げていく。

「あなたはかなり私を殺すことに自信を持っていたのですが、どうやらそれも私にとっては失望で終わりそうですね。残念です。まぁせめて、雑魚は雑魚らしく素直に私の養分になってください」

「う! う、うがぁ。お、おのれ……! いくらお前が伝説の『吸血族』といえど、俺たちに喧嘩を売ったことを後悔……」

男が苦し紛れの警告を告げるよりも先に、シスターは右手にわずかに残っていた血を利用し、残っていた血を男の右目に向かうようにデコピンを行う。

放たれたわずかな血は超近接距離から放たれた銃弾の勢いで男の右目を直撃し、眼球を消し飛ばした。

「あぁぁぁぁぁ!」

失明させられた男は喉が潰れるんじゃないかという勢いの苦しみの奇声を上げていた。まぁ無理もないだろう。腹部はもちろん、右腕も切断され、挙句の果てに右目まで失明されたんじゃ、素直に死んだ方がマシさえ感じるほどの狂気っぷりである。

さらに、シスターがここまで男を痛めつけてもなお、罪悪さを感じている様子が微塵も感じられないどころか、人が苦しむ様子を見ることに一定の快感すらも覚えているように見えた。

俺があの部屋で見たものが今、こうして現実となって姿を現したのである。

「どうやら意地でもあなたの方から情報は吐く気はないと言うわけですか。仕方がありません。あなたの血から、情報は抜き取らせていただきましょう」

シスターは右手を男の頭に突き刺し、そこから血を吸う蚊のように男の血を吸い始めた。

「あ、あぁぁぁ……」

あまりに損傷を与え過ぎたせいなのかこの程度ではもうまともに声を上げる事さえもままならない状態。

そして、程なくして男はぐったりした状態で力尽きた。




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