4 変態

 たとえば“テンポ180”というと、「1分間に180個の四分音符が並ぶ」という意味なのですが……


即興演奏においての“テンポ180”は、「0.3秒に一回何らかの判断をしながら演奏しなければいけない」という意味になります。


 「そんなこと絶対無理」って僕も思っていましたが、ジャズを演奏しているとそんな事が普通にできるようになります。


「すべては日々の練習の賜物」と言うとそうなんですが……客観的に考えた時、「凄いことしてたんだな」って僕は思ってしまいます。


 前回も書いたように、ジャズミュージシャンはアスリートレベルで楽器を練習しているので、プロの世界では、不思議(というか凄いというか訳分からないというか……)な事がよくありました。


——テナー(男性声域)のサックスプレイヤーが、ソプラノ(女性声域)の音階でソロをしたり……


——ベーシストが張力1トンのウッドベースの弦を、薬指や小指でかき鳴らしたり……


——ドラマーが、スティックで太鼓をヒットした瞬間、なぜか打面では無く、太鼓の“裏面”が裂けたり……


——片手で7つの鍵盤までしか届かなかったピアニストが、練習の結果、8つの鍵盤まで届くようになったり……


フィクションの世界の話みたいですが、もちろん全部実話です。


 ジャズ界隈にはこの種の「仰天ビックリ人間」的な話が沢山あって、尽きません。


もちろん、プロのジャズミュージシャン全員にそんな逸話があるわけでは無いのですが……どこかのネジが外れてる「凄い」って言うか「ヤバい」人が多いのは、確かだと思います。


 ですので我々はそういうジャズミュージシャンに出会うたびに、敬意を表して心のどこかでこう思います……


「この人は変態だ」……と。

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