3 神経質に大胆に狂気的に美しく

 「ジャズの演奏に真の意味で向いている人間なんているのか?」というのが僕の長年の疑問です。


『ジャズのレジェンドやプロが世界中に沢山いるのに何言ってるんだ?』って話ですが……あくまで「真の意味」でってことです。


つまり……「理想論的に完璧なジャズ奏者っているのかな?」ってことです。


 なぜならジャズは……「コンマ数秒で鎬を削り合いながら」+「美しい音色で」+「ノリとテンポをキープして」+「情感豊かな歌を奏で」+「即興演奏する」……という音楽だからです。


つまり表題のとおり、「神経質に大胆に狂気的に美しく」演奏できないといけないわけです。


かなり無理ゲー臭がします。実際無理ゲーだと思います。上記のことを全部同時に出来るはずなんてありませんから。


だから演奏中は失敗だらけです。


アマチュアはもちろんのことプロでもそうです(※プロは失敗しても失敗には聞こえませんが……)。


つまりジャズは無理ゲーの死にゲーなんです。演奏してた僕も「こんな音楽やってられるか」と何度も思いました。


 ですから僕はずっと疑問なんです。「こんな理不尽の塊みたいな音楽に向いている人間なんて居るのか?」……と。


しかしじゃあ何故、「ジャズの沼にハマった人が抜け出せないのか?」とか「無理ゲーのジャズに命を賭けちゃう人が絶えないのは?」……という疑問にお答えしますと……上手く演奏できた時の気持ち良さが半端ないからです。


それは一年に一回か……ひどい時は数年に一回の一瞬だったりするんですが……全てがうまく演奏できた瞬間の自分は、「どんなことしても最高の演奏ができる。俺はジャズの神になったのか?」と勘違いするぐらいの、気持ち良さがあります。


だからこそ、一度でもその瞬間を味わったミュージシャンはジャズから抜け出せなくなります。なぜならその瞬間は、お客さんも喜び自分も気持ちよく、他の何物にも変え難い素晴らしい一瞬だからです。


 そうして沼にハマってしまったミュージシャンは、その僅かな一瞬を求めて毎日毎時間毎秒、楽器の練習に時間を費やすことになります。


……取り憑かれたように……自分の尻尾を追いかけてぐるぐる回り続ける犬みたいに……。


そのことで人間関係や信用や健康すら失ったジャズレジェンドも沢山います。


だからこそ僕は、ジャズは打ち上げ花火みたいな芸術だと思っています。


みんな必死で毎日練習して、1秒にも満たない恋焦がれるような一瞬に全てをかけるわけですから。

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