適正

@saruno

適正

「あの男、また来てるんですか?」「そうなんですよ、これで25回目」「懲りないねぇ…」「俺を勇者にしろの一点張りで全く話にならない」

 ここはとある地方の民間病院。政府により秘密裏に指定されたモデル病院にある「転生課」なる機密部署では、寝たきりとなった患者に異世界転生を使った緩和ケアを実施している。

 異世界転生といっても、本当に転生するわけではない。大手ゲーム会社と提携し、独自のバーチャル・リアリティーの世界で「夢」を見てもらうのだ。入院中の退屈が過大なストレスとなり、治療の長期化や医療費の増加に繋がることを懸念してのテストであった。


 そこは空想小説などでよくある中世がモチーフで、魔法があり、魔物が居る世界である。患者にはそれぞれ適正にあった種族や職業が与えられるが、それは転生課に一任されており、患者自身に決めることはできない。


「課長、もう勇者にしてあげたらいいんじゃないですか?」部下の一人が課長に進言した。「いや、ダメだ。特に転生先の中でも勇者は特に注意を払って決定される重要な職業なのは君も知っているだろう」「具体的な理由はよく知りませんが…」「そうか、では少し説明が必要だな」


「君は勇者に必要な適正とはどんなものだと思うかね?」

「それは…勇気とか、強さとか、賢さとか、そういったものが総合的に高い人ではないでしょうか」

「うむ、確かにそれも重要だが、一番重要なのはね、世渡りの処世術だ。」


 課長は不思議なことを言い出した。


「いいか、勇者というのは王の権力を振りかざせる最上級職の一つだ。つまり、勇者の振る舞いは、全て王の振る舞いに等しいといってもいい。そういった権力を持つに相応しい人間は、常に隙のない人物でなくてはいけないのだ。」

「窃盗などの犯罪歴はもちろんのこと、酒やギャンブル、異性トラブルも付き纏われては困る、そういうのはメディアにとって格好の的になる。少しでもそういった可能性のある人は勇者になれない」

「でも、そんな完璧超人、世の中にいるんですか?」

「いないと思うよ。」

「ではなぜ…」

「だから、抹消するんだよ。犯罪歴はデータベースから消せばいいし、酒やギャンブル、異性トラブルは相手に口止め料を渡す。場合によっては…」


 部下の顔がだんだん引きつってきたのを見て、課長は少し咳払いをした。


「だが、それだけではダメだ。罪を犯しても何食わぬ顔で平然としていられるような人でないと。そうだな、詐欺師のような人が理想的だ」


「なるほど、だんだん言いたいことが分かって来たような気がします」


「私があの男を勇者にしないのは、生真面目すぎるからだ。不祥事の揉み消しを国家ぐるみでやってるなど知れば、きっと正義の顔で不正を暴こうとしてくるだろう」


「ゲームの世界でそんなことされたら、ゲームバランスが崩壊するよ」

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