第41話

「あの、そちらの方は…」



遠慮がちな声音で聞かれたのは、私のことだった。どういう関係なのか、ということか。


隣で和泉くんがなんて言えばいいか思考しているのがわかる。途端に言葉を発さなくなったからだ。



でもまあ、最初に言うとしたら、これかな。いきなりマネージャーっていうのもアレだし。




「編集長の娘なんです、私。浅葱菜奈といいます」



やっぱりこれが、誰にでも通用する挨拶で。これを言えばみんな納得したような表情を浮かべる。


印南くんが、そうなんですか、と返したところで和泉くんが呼ばれたので、お互いに撮影の準備に取り掛かった。




“編集長の娘”


……これを言うことがいいことなのか、最近迷い始めている。



編集長の娘と人気モデルの仲が良いーーなんて、あまり聞こえが良いように思えないからだ。なので、同級生と言葉を変えようか考えているが、私の名前を聞けばある程度の人が気付く。




……私と和泉くんが出会った順番は、逆なんだけれどね。


高校で先に出会い、スタジオで再会してやっと気付いた。それくらい、和泉くんと出会う前の私はこの仕事との関わりが全くなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る