第32話
ーーなぜ、あそこで怒ったのか自分でもよくわからない。
「あ、コウ。どうしたんだよこんな時間に」
「……志筑。ごめん」
19時半。いつも志筑の家にお邪魔するのは休日の朝なのだけれど、珍しく平日の夜に来てしまった。
いきなり電話をかけてドアを開けてくれた志筑には、感謝しかない。
志筑の家は両親と大学生のお姉さん、という構成なのだが、今日は年に三回ほどあるという、旅行の日だったらしい。高校生の志筑だけがお留守番で、またすごい時に来れたな、と思う。
「……なに、また菜奈ちゃん?」
「またってなんだよ、またって」
「当たってるんだー。わっかりやっすー」
面白がるように笑うピエロみたいな志筑に、ちっと舌打ちをする。
志筑は「おー、怖い怖い」とおどけた。お父さんの関西人の血が流れていると言っていたが、関西弁は滅多に出なく、こういう何気ない仕草にそれが現れているな、とよく思う。
「うるさい。……コーヒー飲みたい」
「カフェインいいの?」
「普段飲まないから、今日ぐらいは」
「酒みたいに言うなよ、砂糖は一本だよな?」
「うん。ミルクなしで」
ミルクなしの砂糖一本。これで志筑の家に来るのは何回目だろう。休日はふらっと立ち寄ることが多いので、両手で足りない回数かもしれない。
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