第24話

授業が始まる5分前だというのに、和泉くんは何故か屋上に向かった。


なにも言わない彼に戸惑いながらも、私は階段を上がっていくその華奢な背中についていく。



いつでも開いている屋上のドアをくぐり、私は初めて授業をサボることになった。



和泉くんが真新しく塗り直された白い柵の前で足を止め、話を切り出す。




「……あのさ。浅葱さん、この間家まで送ってくれたでしょ」


「……うん」


「……俺、キスしたでしょ」


「…………」



さすがに、うんとは言えないので押し黙る。



和泉くんはそんな私に振り返り、こう言った。




「ーーあれ、気にしなくていいから」


「……え、」


「疲れていたのかもしれない、ごめん、あんなことして」


「…………」


「……ごめん」


「…………」


「……浅葱さん?」



一向に喋ろうとしない私の表情を覗くように、和泉くんは私の目の前でしゃがむ。


私はそれを避けるように後ろを向き、自分に言い聞かせた。




ーーあのキスに意味はない、和泉くんが疲れていて気が動転したんだ、と。





「……気にしてないよ、全然」


「……そっか」



和泉くんは、やんわり微笑んだ。





和泉くんの笑顔を久しぶりに見れた。



……それなのに、なんで。



私は和泉くんがあのキスをなかったことにしようとしているのが、悲しいんだろう。

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