第20話

和泉くんの家に入ると、月並みだが物が必要最低限ないところだな、と思った。リビングにはローテーブルと座椅子。寝室のベッドより大きい家具がないように見えた。

テレビや洗濯機、電子レンジがあってほっとしたのは秘密だ。多分、コインランドリーみたいな場所が嫌なのだと思う。余計な心配をして。




ベッドに和泉くんを降ろすと、私は彼のリュックをローテーブルに置き、帰ろうとした。

けれど、いつの間にかベッドにいたはずの和泉くんが私の後ろにいて、反射的に「えっ」と声を漏らすと、彼は私の頬を掴み、触れるだけのキスをした。




「……んっ、い、」



和泉くん、どうして?


なんでそんなやさしいキスするの?



和泉くんは私に二、三度キスをして、やっと顔を離した。


一方的に与えられたそのキスに顔を真っ赤にしながらも、私は疑問を抱いていた。




「…ごめん、浅葱さん」




……なんで謝るの。


謝るんだったら、しなければいいのに。




「…帰る」



落としてしまったカバンを持ち上げ、私は和泉くんの家を後にした。






ーー油断、してたのかもしれない。



……有馬くんを呼んで帰してもらったほうがよかったのかな。


和泉くんは男の人だ、私は警戒心がなさすぎたのかもしれない。


和泉くんと気まずくなってしまいそうだ。



私は明日、どんな顔をして会えばいいのだろう。

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