第19話

シャケのおにぎりを食べ終えた和泉くんが、ふと思いついたかのように「食べたの?」と聞いてきたので、うん、と頷く。それに対して彼はそっか、と表情を変えず一言。



彼は黒の無地のリュックにスマホを入れて立ち、「帰ろっか」と先に言われたので、間を置いてこたえた。



未だ寝ぼけたままのうつらうつらとした彼の目が気になり、早く帰して寝かせようと決めた。


が。



「……和泉くん?」



駅行きのバス停まで歩いている途中、少し手前を歩いていた和泉くんがふらつき始めたので、駆け寄る。後ろから両肩を掴むと、和泉くんが倒れかかってきたので慌てて支えた。



「……眠い」


「…うん」


「タクシー……」


「……家の住所言えるよね?」


「……着いてきて」


「………わかった」



あれだけ寝たのに、まだ寝足りないか……?

タクシー代を経費として請求しよう、と思いながらタクシーを止めた。


この時間に高校生二人、だけど制服を着ていないせいで変に思われてないようだ。……もしかして恋人同士に見えてたりするのかな、なんてぼんやりどうでもいいことを考えた。




完全に微睡みに身を任せている和泉くんをタクシーから引きずり降ろし、マンションのエントランスに入る。和泉くんのポケットからカードキーを出し、何号室かを聞くと、15階ある中の5階だった。


エレベーターに乗って、普段はそんなにガン見出来ない、目を伏せたままの和泉くんを眺めていると、あっという間に5階に着いた。綺麗な顔はいくらでも眺めていられるな、と思った。

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