第2話

「俺、絶対変なこと言ってるでしょ!?」



彼は見る勇気がないらしく、校正前は勿論、校了後の紙面を一度も目を通さない。インタビュー当時の自分の醜態を思い出して三日三晩引きずるらしい。重すぎる。


私は彼のページを毎回チェックするが、全然問題ない。

(編集者さんの丁寧な誌面作りのおかげもあり)むしろ完璧だというのに、彼は「そんなの社交辞令でしょ、無理、そういうベタ褒めなの俺無理だから」と素直な感想をはねのけてしまう。ベタ褒めなの俺無理だから。じゃないんだよ、話を聞けタコ。



昼休みが始まってすぐに席を立ち、彼にインタビューの依頼をして数十分。


お互いに昼食を取らずに走り続けてきたため、もう埒があかないと感じ、私は彼の右腕を掴んだ。


途端、彼の足が止まり、私は彼の華奢な背中へと吸い込まれる。


勢いよく鼻の頭をぶつけた私に和泉くんが振り返った。




「ごめん、あのだいじょ、」


「……謝らなくていいからインタビュー受けて」


「……すごいね浅葱さん、本当にガッツがあるというか……」


「受けてくれますか」


「……粘るね……」


「だって和泉くんのマネージャーみたいなものを任されてしまっているので」


「編集長の娘な上、同じ学校ときたら俺はどう逃げ回ればいいんだっていうね……」



そう。私のお母さんはメンズ向け雑誌「amber」の編集長である。


和泉くんは、「amber」専属モデルなのである。


雑誌の中で一番人気があるというのに、彼は、専属モデルの中で一番自分に自信がない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る