第15話(前編)――「市場に響く若獅子の声」
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『忘れられた皇子』(第十三章第15話)【作品概要・地図】です。
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『忘れられた皇子』(第十三章第15話)【登場人物】です。
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前書き
992年5月27日、
本文
992年5月27日午前9時、
広間の御簾を上げると、磨かれた床面に朝の光が斜めに走った。香炉の白い煙が細くのぼり、薄い伽羅の匂いが部屋を均一に満たす。
「
「はい、閣下!」と
そこへ、駆け足の足音が廊下に弾み、砂塵の匂いとともに一人の役人が飛び込んだ。
「閣下!市場で役人の不正徴収に抗議する商人たちが大騒動を起こしています!」と役人は肩で息をしながら叫んだ。
「分かった。すぐに向かうぞ」と
市場に出ると、熱気はすでに真昼のそれであった。乾いた土埃が光をにごらせ、魚を捌く生臭さと、胡椒や山椒の刺激的な匂いが鼻腔を刺す。俵を積む掛け声、秤の皿が触れ合う金属音、怒号と嘆きが渦を巻き、一触即発の緊張が大路の上に張り詰めている。
「静まりなさい!今日より税の徴収は市場でなく役所で行う! 正当な税額は既に公示されている。役人が市場で直接徴収するのは不正行為である!」と、
群衆は潮が引くように静まり、汗に濡れた顔がいっせいにこちらを向いた。秤の揺れが止み、遠くで鳴く鶏の声まで聞こえる。沈黙を破ったのは、白髪まじりの古参商人である。
「これが真実だ。我々がこれまで徴収された税は、不当であり不正だったのだ!」と古参商人は声を張り上げた。
堰を切ったように歓声が上がった。掌が打ち鳴らされ、粗布と絹の袖が風をうむ。石臼の回転が再び速くなり、店先の旗が鮮やかな朱を振る。不正を働いた小役人が慌てて人波を割って逃れようとしたが、槍先を揃えた兵士たちが素早く取り囲み、麻縄の軋む音とともに捕らえた。
「よくやった、
後書き
市場での騒動を前に、若き
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