第14話(後編)――「偽金の裁きと税の公示」
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『忘れられた皇子』(第十三章第14話)【作品概要・地図】です。
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『忘れられた皇子』(第十三章第14話)【登場人物】です。
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前書き
992年5月26日、公堂で「偽金」騒ぎが起こると
本文
その場を静かに見守っていたのが、南唐の王族の末裔、
「見事な裁きでした……」
隣で
「母上、彼は本当にすごいですね!」
熱の残る炉を背に、母子の頬に淡い紅が差す。
「母上、今日の昼食は私たちがご馳走しましょう!」
「それは良い考えですね」
「では、お供させていただこう」
門を出ると、午の陽が石畳を白く照らし、
「市場の税金に関する訴えがあったな」
「はい、閣下。
「これについては、後で調査するとしよう。今は、昼食を楽しもう」
妓楼『
「ここは……思ったより静かですね」
「妓楼とは言え、ここは知識人や文人たちが集う場所。静かな宴を好む方々のための場でもあります」
卓上に、杭州の精巧な皿が次々と置かれる。
「これは素晴らしい」
「閣下、お口に合いましたか?」
「うむ」
「閣下のような方が、この杭州を治めてくださるのは、民にとって幸いなことです」
茶の湯気がふわりと立ち、器の縁に光が細く宿る。ここに、新しい信頼の芽が確かに結ばれたのである。
午後、風は涼しく、
「閣下、この後は役所でどのような案件をお控えでしょう?」
「些細なことだ。市場で役人が不正に課税していたという訴えがあり、その調査を行う予定だ」
「ほう……それは興味深いですね」
「不正な課税というのは、具体的には?」
「
「なるほど……」
彼女は杯を置き、身を寄せて囁く。
「それならば、まず市場で『正規の税額を公にすること』です。役所に記録があるはず。商人たちが知ることができる形で公示すれば、不正がすぐに露見するでしょう」
「確かに、公示すれば、民衆もどこまでが正当な税かを理解できる」
「そして、市場で直接税を徴収するのではなく、役所で正式に納税させる仕組みに変えるのはいかがでしょう?」
「つまり、役所での納税証明を発行し、それを持って初めて商売が許可されるようにする、と?」
「はい。市場で税を取るから、不正が生まれやすくなるのです。すべて役所で手続きをすれば、不正の余地は限りなく減ります」
「なるほど……」
茶の苦みが舌に残り、思考の輪郭をくっきりさせる。
「見事な手順だ」
「妓楼の女将として、日々金の流れを見ておりますので」
杯が軽く触れ合い、乾いた音がして消える。彼女の過去——南唐の王族の血と、現在の冷静な眼差しが一筋に結ばれて見えた。
「貴方のような方が、この
「ならば、この策を試してみよう」
こうして、妓楼の静寂の中で、税の公示と役所納付への切替という実務の骨格が整えられた。帳簿は整い、札は掲げられ、街のざわめきは、次第に秩序の鼓動へと変わっていくのである。
後書き
公開の裁きで公正を示し、食卓の対話で手続きを整えることで、不正上乗せの余地が小さくなり、商人と小役人の癒着に切れ目が入る。次回は公示と証明の運用を実地で回し、現場の問題を潰していく段に入る。
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