第11話 鏡の中にいる可愛い女の子は「ボク」11
女になった僕は産むことは出来ないけれど、どうしても子供が欲しい
父が亡くなって1年後、僕たちは結婚しました。鏡に写る僕の姿はもう女の子ではなく、一人の女性になっていました。いつまでも男の娘タレントは続けられないので、僕は引退して主婦になる道を選びました。ただ、毎日家にいるとなんだか物足りなくてたまりません。
僕は身体を女性に変えて、戸籍も名前も変えました。そして普通に結婚して夫の姓になり、正式に妻になりました。目的は達成されて嬉しい筈なのになんだか物足りないのです。
僕は目標を失って、これからどうしたらいいのか分らなくなってしまったのかもしれません。普通の女性ならば妊娠、出産、子育てと言う女性として次の目標があります。でも、僕にはそれがありません。
毎日、家事をこなし、彼の帰りを待つ生活に不満はなく、しかも彼は優しくて幸せな生活をしています。毎晩のように彼に抱かれて女の幸せを身体全体で感じています。
ただ、女の身体を維持するために月に2度は病院に通い女性ホルモンを注射して貰っています。それは仕方のないことですが、これは一生続くのです。
身体が女性になって、心も女性として生活しているのに物足りないのは、僕には子供を産み育てることが出来ないからなのでしょうか?
女性同士のカップルなら子供を産み育てることが可能です。でも、僕にはそれが出来ません。ただ、そんな僕にも一つだけ子供を授かる方法があります。それは養子を貰うことです。
ただし、養子は実子ではありません。戸籍には養子と記載されます。僕は自分の産んだ子供でなくても実子で長男や長女と言う証拠が欲しいのです。愛情をもって自分の子供として育てたいと思っています。もし、途中で僕のように性別を変えたいというかもしれないけれど、それは子供の人生なので、仕方ありません。
そして、養子のことを詳しく調べていくと条件によっては特別養子縁組と言って戸籍に実子とし記載できる制度を見つけました。ただし、それには厳しい条件があり、家庭裁判所で認められるまでに半年から一年の期間がかかることが分かりました。
でも、世の中には子供は産んだけれど育てることが出来ずに里親に託す人もたくさんいます。しかも戸籍上の親という身分を放棄し養親に託すという制度です。だから、僕はその制度を使って本当に自分の子供を持ちたいと考えました。
兄たちはそこまでしなくても普通に養子縁組をして子供を育てようと思っているようです。お姉ちゃんは兄の子供を産むことが出来ないので、里子でもいいから早く子供が欲しくて堪らないのです。早く暖かい家庭生活が築きたいのです。
でも、僕は自分の子供と言うことに拘っていました。母が自分のお腹を痛めて産んだ男の子が女の子になってしまったのだから、出来れば僕の産んだ孫を見せてあげたいと願っているのです。
僕はその制度を申請できる機関に登録しようと思っています。この制度は既に結婚している25歳以上の子供の欲しい夫婦が対象です。しかも、私たちの身元を詳しく調べた上に半年以上の試験養育期間を経てやっと家庭裁判所から許可が下りるのです。
その上、子供の性別や血液型などは私たちが選ぶことが出来ません。あくまでも子供の福祉が重要で、健全に育つことが目的なのです。でも、その審査に合格すれば、僕は戸籍上本当の子供を持つことが出来るのです。
それには彼も賛成してくれました。ただし、申請するためには婚姻後3年以上という制約があるので、僕はあと2年待たなくてはなりません。経済的に安定した環境で子育てができ、成人した後でも見守ることの出来る環境が必要です。
法的に同性カップルには認められていない制度ですが、僕は戸籍を変更し、彼と正式に結婚しているので大丈夫なはずです。ただ、普通の夫婦とは違うので厳しい審査があるかもしれません。
でも、どのようなハードルがあっても僕は子供が持ちたいという気持ちは変わりませんでした。僕は性分化疾患で遺伝子的に男性とも女性ともいえない身体ですが、子宮も卵巣も無いのでいくら頑張っても子供を産むことは出来ません。
それでも、ホルモン治療で身体は女性と変わらないくらい女性化し、性別適合手術を受けて女性の身体になりました。でも、僕には妊娠、出産という女性と同じことは出来ないのです。ただ、戸籍を変更したことで彼とは正式に結婚することが出来ました。
これ以上の幸せを望むことは元男性であった僕には無理なことなのでしょうか? 僕は本当の女の幸せは彼の子供を産んで育てることだと思っています。僕は2年たったら正式に特別養子縁組を申請し、新生児を自分の子供として育てたいと思っています。
勿論、不安なことはたくさんあります。子供が乳首を咥えても僕は母乳を与えることが出来ません。それで親子の絆が出来るのかとても心配です。たくさんの苦難に出会うかもしれません。子供に本当のことを知らせる時が来るのは分かっています。でも、僕は女の歓びを味わいながら生きていきたいのです。
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