第10話 鏡の中にいる可愛い女の子は「ボク」10

父の葬儀に僕は黒のワンピース姿で参列しました。親戚の人たちも最初は僕が誰だか分らなかったようですが、兄と並んでいたので僕が女性になったことをやっと理解したようです。僕は女性タレントとして有名になったつもりでしたが、親戚はやっとそのことを実感したのだと思います。


僕は身体を女性に変え、戸籍も名前も変更しています。それを両親には黙っていたので、申し訳ない気持ちもありました。でも、母は僕が女性になったことを理解してくれて、認めてくれました。そして、今ではしずかちゃんと呼んでくれます。でも、父はそれが分からまま亡くなってしまったので心残りになっています。


兄は僕と同じように男性から女性に変わったお姉ちゃんと結婚しました。それを母はどう思っているかと言うと僕の時とは違い、どうも認めたくない気持ちがあるようです。やはり長男と次男は扱いが違い、母は孫の顔が見たいという気持ちがあるのかもしれません。


それでも、僕とお姉ちゃんがとても仲の良い姉妹の様な様子を見ると決して顔には出さないし、そのことを口にすることもありません。そして、僕と稔がとても仲良く一緒にいる姿を見ると母は複雑な気持ちになるのかもしれません。僕も兄も子供を持つということが出来ないのです。


それでも僕たちは幸せです。好きな人と暮らすことが出来て、それが元は男同士だったとしても互いに信頼し、夫婦として暮らせるのならば素晴らしいことだと思います。もし、どうしても子供が欲しいのならば養子を貰うことだって可能です。


僕はまだ結婚していませんが、いずれ稔と一緒になりたいと思っています。既に結婚した兄は養子を貰って子どもを育てたいという気持ちになっているようです。もし、そうなれば母も安心するでしょうし、僕たちの生き方をみとめてくれるかもしれません。


僕は手術をしてからは殆ど女性と変わりない身体に変わっていきました。元々性分化疾患の私は遺伝子が女性化しているので、ホルモン注射でどんどん女性に近づいていきました。手術で人工的に作った女性器でも稔と毎日の様にセックスしているので、何の問題もなく、しかも感じるようになり、女性の悦びが分かるようになっていきました。


時々、お姉ちゃんと会うと二人でエッチな話をしてしまいます。

「最初は違和感があったけど、今は凄く感じるのよ」とお姉ちゃんが言うと、

「私も感じるようになったの」と僕が応えます。

「だって、お尻じゃないのよ。男と女の営みが毎日出来るのってすごく幸せね」

「恥ずかしいけど私もそうだわ」

「彼も凄く満足しているし、やっぱり手術してよかったわ」

「女になったことが実感できるのよね」

「しずかちゃんも早く彼と結婚しなさい。もう、戸籍も名前も女になったんだから、それが女の幸せよ」と言った女同士のお話しをしています。


でも、まだ僕はまだ、父にはっきり話せなかったことと、母がこれからどう生きていくのかが心配でした。兄は最初からゲイでニューハーフ好きだったから女の気持ちは理解できないかもしれないけれど、稔は一度は女になろうと思っていたから僕の気持ちを分かってくれます。だからその分僕は幸せです。


僕は高校生の頃、兄に抱かれて「お前は男だから幾ら中出ししても妊娠する心配がないから最高の身体だな」と言われたことを思い出しました。最初、兄は僕のことをそのように思っていたんだ。だから、お姉ちゃんも最初はそのように思われていたのかな? と思ってしまいました。性別適応手術を受けてない人とするセックスってどんな気持ちなのかな? と考えました。


僕と稔のセックスは僕が女の身体になってからです。最初から男女の営みでした。だから稔は最初から僕を女として扱ってくれたし、とても大切にしてくれました。でも、最初に兄に抱かれた時はいきなりお尻に入れられ、ものすごい激痛と闘いながら、早く終わって欲しいと思いました。でも、その反面、初めての男が兄だったから素直に受け入れられたのかもしれないと思います。


その後、僕の身体は急激に女性化が進み、自分でも驚く速さで女の姿に変わっていきました。それが性分化疾患の特徴なんです。僕は女として生きることの決意をし、ホルモン治療を始め、二年がたった頃、タイで手術を受けました。そして、戸籍も名前も変更し女性としての生活を始めました。


そんな時に高校以来久しぶりに再会した稔も女性になる決心をして病院に通っていましたが、僕のことを見て女性になるのを諦め、男として僕と暮らす道を選んだのです。昔から好きだった僕が女になって暮らしていることを知った稔はその時、僕と一緒になることを決意したようです。今は二人一緒に同棲生活をしていますが、僕は稔の妻になるつもりでいます。


今はタレントとマネージャーの関係ですが、いつかは正式に結婚したいと思っているのは僕も稔も同じで、そう感じています。未だ、稔は僕にプロポーズはしてくれませんが、その時は彼の妻になる決心はもうついています。彼の戸籍に入り、名前が変わる女の喜びを味わいたいと思っています。出来れば子供が欲しいし、子育てをしてみたいです。

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