第8話 鏡の中にいる可愛い女の子は「ボク」8

僕は毎日の日課である辛いダイレーションをするために早起きをしなければなりません。これも本当の女性になるための試練なのです。お姉ちゃんのように毎日の様に兄とセックスをしている場合はいいのですが、僕は彼もいないし抱いてくれる男もいません。そして、初めて身体を許してしまった稔のことは心から好きになることが出来ないのです。僕の本当の気持ちは兄に抱いて欲しいのです。


そんな気持ちのまま就活に望んでいた僕ですが、ある日のこと僕の描いたイラストがある広告会社の目に留まり、ポスターに採用されることになりました。漫画の様な目の大きな可愛い女の子のイラストではなく、リアリティのある写真の様な絵に世間は注目しました。しかもそれを描いたのが元男の子の僕だということも原因でした。


そのため、僕の就活は急に忙しくなり、正社員として僕を直ぐにでも内定ではなく本採用したいという企業が現れました。企業の青田刈りです。でも、広告代理店は僕の絵の才能と共に僕のタレント性にも注目していて、出来ればフリーのイラストレーター以外にタレント活動も欲しいと思っているのです。結局僕の才能よりも男性から女性に変わった元男の娘キャラが欲しかったのです。


性分化疾患の僕の体型は女性と変わりません。しかも、手術をしているので戸籍も既に女性に変わっています。だから、僕はもう元男の子と言われて生活したくありません。「しずか」と言う一人の女性として扱って欲しいしのです。ただ、僕を売り出すためには元男の子の可愛いイラストレーターと言うフレーズが欲しいのです。


しかも、僕が以前にニューハーフの風俗で働いていたことも調べ上げていました。僕にとってオチンチンが着いていた時代の記憶は黒歴史で、蒸し返して欲しくない事実なのです。早く手術を受けるために風俗で働いてお金を貯めたかったこともありましたが、お姉ちゃんの働いているお店だったので安心して働き始めたのです。


ただ、並行してホルモン治療も始めたので性分化疾患の僕は直ぐ身体に変化が現れ、驚く速度で女性化していきました。豊胸していないのに大きな胸になり、それをお客さんはとても喜んでくれました。でも、僕はお金が溜まると直ぐにお店は辞めて手術の準備を始め、タイへ行く手配を始めたのです。


でも、広告会社は僕が元ニューハーフとして風俗で働いていた事実を明らかにし、手術をして今は女性になっていることを公表してしまったのです。そうなるともう女子学生として普通の就活が出来なくなってしまったのです。正社員として採用したいと言ってきたデザイン会社も連絡が来なくなりました。ただ、僕の制作したイラストはものすごい人気で、その後もオファーが幾つのも来るようになりました。


ただ、それと並行してタレントとしての僕も忙しくなりました。広告代理店の思惑通りに僕はモデルのようにグラビアに水着で出たり、ヌードモデルまがいの仕事をさせられるようになってしまったのです。「イラストレーターの新星! 作者は元男の娘のニューハーフ」と言うキャッチコピーが独り歩きし、ネットや雑誌のグラビアページを飾り、フルヌード写真集のオファーを受けるようになりました。


ゆっくりと卒業制作をする時間もなく、イラスト制作よりもタレントとしての仕事の方が多くなってしまいました。ただ、もう元に戻ることは出来ません。兄やおねえちゃんと過ごす時間も少なくなり、ゆっくり相談することも出来ず、悩んでいました。でも、そんな時に僕を助けてくれたのが稔でした。


彼は以前アルバイトをしていたタレント事務所に僕を紹介してくれて、何と自らマネージメントも手伝ってくれたのです。男の娘タレントを夢見ていた彼は、いつか自分もタレント活動をしたいと考えていたのです。僕も彼が傍にいてくれれば嫌なことははっきり言えるので凄く安心でした。しかも、稔は僕が女として初めて身体を許した相手なのです。


次第に僕が風俗嬢のアルバイトをしていたことは風化してしまい、次第に本業のイラストよりもタレント活動の方が主になってしまったのです。しかも、二人で力を合わせて頑張って仕事をしていくうちに稔の本当の気持ちが分かるようになり、彼なしでは活動できなくなっていったのです。彼はタレントとマネージャーと言うスタンスは決して崩しませんが、僕は信頼する彼にまた抱かれてもいい気持ちになっていました。

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