第6話 鏡の中にいる可愛い女の子は「ボク」6

僕には彼氏はいません。そして、僕を始めて女にしのは兄です。夏休みに帰郷した兄が僕のしぐさや体の変化に気づき、抱かれてしまいました。無理やりだったけれど、何故か嫌ではありませんでした。心の底でそれを望んでいたのかもしれません。


それ以来僕は女として生きていくようになりました。兄の彼女はニューハーフのお姉ちゃんですから、僕の様子を見て直ぐに分かってしまったのです。そして、兄もお姉ちゃんも東京に出てきた僕を女性として生きて行けるように助けてくれました。僕にとってこれほど強い味方はありませんでした。


僕の身体には初めて抱かれた兄の肌の余韻が今でも残っています。男に貫かれて女の悦びを感じる身体にしたのは兄だったのです。でも、一緒に住んでいる限りもう二度と抱かれることはありません。でも、時々お姉ちゃんに身体を触られたり、キスをされると身体が熱くなってしまい、我慢できなくなる時があります。私も恋人が欲しい! それが正直な気持ちでした。


僕には女の友達はたくさんいるのに男の友達は数えるほどで、悩みを打ち明けるような親友は一人もいませんでした。そんなある日、僕はいつも通っている病院へ女性ホルモンを打って貰うために行くと、以前と同じように同級生の彼に会いました。彼の名前は稔と言い、それほど親しくしていたわけではありませんが、僕と同じように大人しく目立たない存在でした。そして、その日彼は女の姿をしていました。


その日は僕の方が先に受付をしたので治療の後、僕は彼の診察が終わるのを待っていました。僕は彼の隣に座り、小さな声で「みのる?」と声を掛けました。彼は驚いたような顔で僕を見て、「もしかして静雄?」と言ったのです。僕は「そう、静雄よ。今は女性になったから名前はしずかになったの」と言いました。


それから僕たちはお茶を飲みながら懐かしい高校時代のお話をしながら過ごすと、彼は自分がどうして女性になろうとしているのかを少しずつ話し始めました。「僕は君が女装をしているのは知っていたよ。偶然君がセーラー服で東京へ行くのを見かけたんだ。凄く可愛くて羨ましかった。僕は女装をして外へ出るなんて出来なかったから。でも、僕は子供のころから自分が男なのが嫌で、大学生になって東京へ来たら女の子として生きていくと決めていたんだ」と言いました。


僕は「私は君のように性同一性障害ではなく、自分の意思とは関係なく身体が女性化してしまう性分化疾患だから女性として生きていく道を選んだの。あなたも頑張れば必ず女の身体を手に入れることは出来るわ。分らないことがあれば何でも聞いて。私の知っていることなら何でも教えてあげるから」と彼に言いました。


彼の大学生活はまだ男性のままで、女装をして通ったことはなく、未だに部屋の中だけの女装でした。そして、今日初めて女装をして外へ出て病院へ来たのだといいます。そして、僕は彼を家に連れて帰りました。家にいたお姉ちゃんは僕が初めて友達を連れてきたので、とても喜んでくれて、彼を新しいお人形のようにお化粧をして可愛い服を着せました。


「可愛くなったわ。これでもう貴方も立派な女の子ヨ。しずかちゃんのお友達だからこれからいつでも遊びに来てね。私もずっとあなたと同じような気持ちで過ごしていたのよ。そして、手術をするためのお金が必要ならばお店も紹介してあげるわ。ホルモンだけでなく、早く去勢もしたいんでしょ」と言ったのです。


彼にとって女装からホルモン治療、そしてタマヌキ、最後は性別適合手術と言う長い道のりが待っています。そして、一つひとつ階段を上り自分の夢を叶えるために頑張っていくのです。ただ、彼は僕と違って高校時代から好きだった男がいました。そして、大切な彼のために女になりたいという気持ちが強く、週末には男の部屋に通っているのです。


そんな彼の話を聞いているとい僕は羨ましく、自分も早く彼氏が欲しくなってきました。だた、僕は初めて抱かれた兄のことが忘れられません。多分、どんな素敵な男性が自分お前に現れても兄の思い出を断ち切ることが出来ないでしょう。ただ、大学3年生になって就職が近づくと女性として就職するために毎日ボイストレーニングをして、女性の声が出るように励んでいました。


僕の将来の夢はイラストレーターになることでしたが、先ずデザイン事務所に入って仕事を覚えようと思っていました。そして、既に戸籍も女性に変わっているので女性として働きたいと思っています。ただ、会社の人事担当者にそのことを打ち明けるべきなのか? と言うことです。法的には女性として認められていますが、女性ホルモンは一生打ち続けなければなりません。それを話すべきなのか? 僕は迷っていました。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る