第5話 鏡の中にいる可愛い女の子は「ボク」5

手術を受けた僕たちが日本へ帰る日がやってきました。膀胱に着いていたカテーテルが外されて女性のようにトイレで排泄出来るようになり、やっと自由に歩けるようになりました。ただ、必ず毎日しなければならないダイレーションが痛くて気が重くなります。こんな苦しさが半年以上続くと思うと「女の子になるのは本当に大変なことなんだ」ということが分かりました。


退院してホテルへ移った僕とお姉ちゃんは二人で街を観光し、最後のタイを楽しみました。女の身体になって初めて外出です。私たちの姿は見た目は以前と少しも変わらないのにジーンズを穿くと股間がすっきりしていて、身体が女性になったことを実感しました。そして、これからはこの身体で生きていくんだという歓びが湧いてきたのです。


翌日、日本に向かう飛行機に乗り、到着すると空港に兄が僕たちを迎えに来てくれました。兄は直ぐにお姉ちゃんを抱きしめてキスをしたので、僕は「いいな」と思って、少し悔しい気持ちになりましたが、二人は本当に愛し合っているのが分かりました。そして、久しぶりに3人で外で食事をして部屋に戻りました。


その晩僕は一人で眠りにつきましたが、兄とお姉ちゃんは久しぶりの夜の営みです。隣の部屋からお姉ちゃんの悦びの声が聞こえきます。お姉ちゃんには初めての女性器を使ったセックスなのです。今までと違ってどんな気持ちがするのでしょうか? その晩はお姉ちゃんの喘ぎ声が何度も聞こえてきました。


翌日から僕にはダイレーションの苦しみが待っていました。ただ、お姉ちゃんは毎晩兄とセックスしているので、一日二回のダイレーションを一回で済ませているみたいで羨ましくなりました。そして、僕は学校に行く合間に病院に通い月に2回のホルモン治療医を受けることになりました。そうしないと身体がホルモン不足になってしまうのです。


そして、僕たちには戸籍の変更と仕事があります。お姉ちゃんは兄と結婚するには戸籍を女性に変更しなければなりません。僕も卒業して女性として就職するには戸籍の変更が必要なのです。医師による性別適合手術を受けたという書類を揃えた上でそれを裁判所に申請すると裁判によって性別が変更されることになります。


お姉ちゃんも僕も二男です。でも、戸籍は男を女に変更するだけなので二人とも二女になりました。ただ、お姉ちゃんは妹が長女なので、自分が戸籍上の妹になりました。僕には長女がいないのに始めから僕は二女になりました。それと同時に名前も静雄から静(しずか)に変更しました。


それから、裁判所からの通知を待って戸籍謄本を申請すると僕の戸籍は女に変わっていて、名前も静に変わっていました。でも、それから健康保険や銀行口座などの性別変更をしなければならないのでいろいろな手続きが山のようにあります。僕には親に内緒で性別を変更したことに罪悪感はありましたが、僕には学生証が女性に変更されたのが、一番嬉しくて友達もみんな喜んでくれました。


僕の身体は性分化疾患なので、ホルモン治療だけでなく性別適合手術を受けたことで身体は更に女性化していきました。急に以前にも増して胸が大きくなり、お姉ちゃんも驚くほど巨乳になりました。でも、治療では変えることが出来ないのが声です。毎日の様に裏声で高い声が出るようにボイストレーニングをしているのですが、中々上手くいきません。


でも、友達からは「段々女の子の声になってきたわね。無理しなくても普通に喋ってももう大丈夫よ」と言われるようになりました。でも、お姉ちゃんは以前から声を替える練習を積んできたので、普通に女の声が出ます。そして、今では兄と本当の夫婦のように暮らしています。そんなお姉ちゃんがとても羨ましくて、僕も早く彼氏を見つけたくなりました。


そんなある日のこと、僕は街で高校の同級生を見かけました。彼も東京の大学に通っているので東京に住んでいるはずです。ただ、以前と少し様子が変わっていました。しかも、彼の後をついていくと僕と同じ病院へ入っていったのです。僕は月に2回女性ホルモンを打って貰う治療ですが、男の彼が婦人科に入っていくのは変です。


彼は完全に容姿が女性に変わってしまった僕に気が付きません。彼が名前を呼ばれるのを聞くと同級生に間違いないことが分かりました。声をかけるのを躊躇っていると彼と僕の目が合いました。でも、僕はそのまま診察室に入って行く彼を見送りました。そして、僕が診察を終えて待合室に戻るともう彼の姿はありませんでした。彼も僕と同じ悩みを持って生きているのでしょうか? でも、同じ病院に通っているのだからまたきっと会うこともあるだろうと思っていました。


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