第8話

二日目、ご主人は学校に行ってしまったので、僕はどうしようもなく暇だった。

 あんまり眠くもないし(昨日の昼間寝すぎたのが悪かったのかもしれない)、ネコのオモチャで遊んでも、人間の体だとあまり面白くなかった(それどころか、ぎこちなくて不気味だった)。

 ご主人がいつもやってるゲームに挑戦してみたんだけど、難しいし目がチカチカして、頭が痛くなっちゃってダメだった。


「ただいま~」


 部活がない今日は、僕(青)に気を使ってか、学校が終わってすぐ、午後3時前に帰ってきた。

「コ~、すごいヒマでヒマでどうしたらいいかわかんなくて困ったんだけどっ!」

僕はふくれてみせた。

「そっかー…友達とかと遊んだりは?てか、学校は??」

「学校は事情があって行ってない。友達も、連絡取れる人いないっていうか…ケータイもお金もないし…」

「ケータイ持ってないの?!」

 う…そりゃあ驚くよね…今の時代、ほとんどの人が持ってるものだしね。でも、しょうがないじゃん!僕はネコだったんだ。そんなモン持ってるかっつーの!(しかも、仮に持ってても、ご主人以外連絡する人いないよ…)

「お金ないし…特別誰かと連絡取る必要とかなかったから」

「そっか~…そういえば、何も持たないで逃げてたの?てか服もないんじゃない?!まさか裸で外に出てたとか…」

 ご主人が大げさに口を手で覆ってみせた。

「裸ではないよっ!!」

さすがにそれは有り得ないよね。現実的に考えて、それは多分、ケーサツに捕まるか、変質者に襲われるんじゃないかなぁ…

「その…追ってきてる男と暮らしてたの。だから、荷物とかは全部私のものじゃなかったっていうか…だから、置いて出てきたの。服は、このマンション入ってすぐ脱ぎ捨てた。水たまりで転んでドロドロだったから、着たまま逃げても、足跡とかでバレちゃうと思って。」

 ドラマか!

 また下手なウソついちゃった…バレたらどうしよう…

 でも、バレたとしても、僕が本当は誰なのかってのは、絶対わかんないよなぁ…うんうん、誰にも分かるはずはないのだ。

「マジで?!ドラマみたいな話じゃん!てか、それ、ケーサツとかに言った方が良くないか?」

「ケーサツに言ってもダメなの。だって、ケガしてるわけじゃないし、閉じ込められてたわけじゃない。追われてたって言っても、一緒に暮らしてたんだもん、『心配だから探しにきた』とか言ってごまかされちゃったら終わりだし…ご飯とか食べさせてもらってたのは確かだから、何も言えないよ…前に言ってみたけど、取り合ってくれなかったし…所詮警察なんて、事件になってからじゃないと動いてくれないんだよ。」

「そっか…」



しばらく、嫌な感じの沈黙が続いた。

いつもだったら、何も話なんてしなくたって、こんな雰囲気にはならないのに…人間同士って難しい。

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