第6話

ご主人が僕(って言っても、猫の大王の方)がいない事に気づいたのは、シャワーから出てきて、飲み物を取ろうと冷蔵庫の前に行った時だった。

僕のために用意されてたご飯が手付かずで残ってたのを見て、そういえばいない…って思ったみたい。僕自身は、全く、そのことに気付いてなかったんだけど…だって僕はここにいるわけだから。

「猫…見なかった?」

ご主人、めちゃめちゃ動揺してる。

「ああ、なんで帰ってきてすぐに気付かなかったんだ?!いつもは絶対に大王が…あ、大王って言うのは猫の名前で…で、その大王が、おかえりって、迎えにでてくるはずだから…ああ、えっと、おかえりって喋るわけじゃないんだよ?猫だから。でも、そう、いなかったら気付くはずなんだ!いつもの俺なら…」

 ああああ、ちょっと落ち着こうよ、ご主人!言ってることはちゃめちゃで、つながってないよ…それに、今日は僕(人間の方)のことでゴタゴタしてたんだから、気付かなくて当然だよ~。

「え…僕…じゃないや、私がきた時にはいなかったような気がするな。ベランダの窓が少し空いてたから、散歩にでも行ったんじゃないかしら?」

 ホント、僕の行方のこと、全然考えてなかった。僕は外になんてめったに出ないネコだから、ご主人だって心配するに決まってる。

「…でも、そんなに外に出るヤツじゃないし、こんな時間まで帰ってこないっていうのも変だし…」

「猫って、気まぐれだし、きっとふらふらしてるのよ」

「…エサも全然食べてないのに?道に迷ったとか…事故にあったりしてるんじゃ…」

 ご主人、事故だったら有り得ないとも言えないけど、僕は道には迷いません。ニオイでち

ゃんと帰ってこれるよ。弁解したいのをぐっとこらえる。

「大丈夫、きっとそのうち帰ってくるって!ね?心配なのはわかるけど…」

「うん…」


 ご主人、かなりへこんでる…大きな背中が、いつもよりだいぶ小さく見える。

 いやぁ、愛されてるなぁ、僕。なんか、嬉しいような恥ずかしいような…



ご主人は軽く僕(人間の方)にご飯を作ってくれて、その後、『猫探してます』の張り紙を書いていた。本気で心配してくれてるんだなぁって、ちょっと涙が出そうなくらい感動したんだけど…


 ねぇ、ご主人、その似顔絵、かなりゴツくない??僕はそんなに強面じゃないと思うんだけど。それじゃあ、仮に僕がネコの姿でフラフラしてても、誰もわかんないと思う…

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