第5話
どうやら、ご主人がその短い時間で、超高速で考えた結果、出した結論は、僕が幽霊だってコトだったみたいだ。
どうしよう…幽霊じゃないって否定して、ホントの事を話しても、多分信じてもらえない。なにせ、当の僕自身が信じられないって思った(まだ微妙に信じられないけど…)ことなのに、信じてもらえるわけがない。そもそも、マンガやドラマの中じゃないんだから、こんなこと、起きるわけないんだよぉ…起きてるけど。
だけど、幽霊だって事にしたっちゃ場合は、ちゃんと触れる生身の幽霊なんて明らかにおかしいっていう問題が出てくるし…
かといって、単なる不審者だと思われちゃって、出てけって言われても行き先がないから困る。
「あ…あの、ぼ…いや、私、に…逃げてるんです!!」
とっさに出たでまかせ。ご主人も、へ?って顔してる…あぁもう、こうなったら、思いつく限りの嘘でごまかしちゃえっ!!
「実は、変な男につきまとわれてて…このマンションに逃げ込んだのはいいんだけど、追
いかけて中に入ってくる足音がして…必死で走ってるうちに、最上階、はじっこのココに
着いて、鍵が空いていたものだから…つい…ごめんなさい…」
我ながらムチャクチャな内容だなぁ…
しばしの沈黙。
うわー、やっぱ、ムリがあったかぁっ!?
恐る恐るご主人の顔色を窺う。
「あー……えっと、そんな複雑な事情が………それは仕方ないね。」
信じるんだ、ご主人!ホントご主人てば、いい人なんだから…僕にだけ優しいわけじゃないのは知ってたけど、知らない女にまで優しいってのはどうだぁ?!しかも本来なら、不法侵入の犯罪者ですぜ?
「今日はもう遅いし、まだこのあたりに、その男がいるかもしれないんでしょ?泊まってけば。」
荷物を置いて上着を脱ぎながらご主人は付け足す。
急に無愛想で無関心な言い方…でも、毎日ご主人を見てる僕にはわかる。ご主人なりの優しさなんだよね。女の子だったら、やっぱり知らない男のところに泊まるなんて、不安だし、遠慮もする。そこを、どうでもよさそうに言うことで、『好きにしていいよ。君が決めればいい。大丈夫だよ、変な事をしたりはしないよ』っていう気持ちを伝えようとしてるんだ。下手に口にすると、逆にウソくさくなるしさ。やっぱご主人てばカッコイイ!!
僕、ご主人の飼い猫でホントに良かったっ!!だって、普通なら、絶対追い出されてるもん。
うっかりしたら警察に突き出されてたかもしれないし…
でも、図々しいかもしれないけど、僕は一晩だけってことじゃ困るんだよね。だってさ、行く場所ないし、人間の生活なんていきなりできるわけないし、お金もないし、今の世の中物騒だし、僕、女の子だし…
「あの…急にだし、無理なお願いかもしれないけど、しばらくかくまってもらえないですか…?」
ごめんね、ご主人。
「…はいっ?!」
びっくりして半笑いのご主人…うわー、絶対ヒいてる!!そりゃ当然だよねえ…
うーん、でもやっぱり、その口元が、すっごい、かわいいんだよねぇ。いつもと目線が違うからかな…いつもに増して、ご主人が素敵に見える気がするっ。
そうやっていつも、つい見とれちゃう僕なのです。
「…あ~、もう、そんな目でじっと見られたら断れないでしょうがっ!仕方ないな~…はぁ…好きなだけココにいなよ。そのかわり、掃除・洗濯・料理などなど、手伝ってもら
うからね~。」
おおー、ラッキーィ!!そんなつもりはなかったんだけど、ご主人をじ~っと見つめてて良かった~!
「あ、ありがとうっ!!」
精一杯の笑顔(ご主人を待つ間に練習してた)で答えると、ご主人は思い出したように振り向いた。
「あと、襲わないって保証はないから、覚悟しといてね」
ニッと笑ってご主人は言った。
ご主人、僕、今本気で期待しちゃいました。
てか、だって、そんなコト言われたの、生まれてきて初めてなんだもん。それにね、大好きなご主人に、そんな色気たっぷりの笑顔で言われちゃったら…キャー!(ああ、僕ってバカ猫?)
お月さま、もしかして、僕のお願いを聞いてくれたんです…か?
ベランダの大きな窓から、白くて細いお月さまを見上げた。
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