第29話

ゆっくりと目の前まで歩いてくると、男は青木をまじまじと見つめた。フンと鼻を鳴らし満足げに頷くと、くもったような声で男は青木に耳打ちした。

「あんた、美味そうなキノコ生やしてるね、それ、俺に食わしちゃくれないかね?」

体中の熱が一気に冷めていくような感覚を覚えた。青木は酷い目眩と吐き気を覚え、柱に寄りかかった。男は、そんな青木の様子などお構いなしに、

「協会で取ってもらったら、俺にまわすように言ってくれ。協会の連絡先と俺の名前を書いといたから。たのむよ。」

と付け加え、青木のシャツの胸ポケットにメモを押し込むと、ヘラヘラと笑いながら去って行った。

 青木は、男の姿を見送りながら、背中にじわりと厭な汗が流れるのを感じていた。足元は震え、視界はだんだんと霞んでいく。倒れそうになるのを必死で支えると、胸元で、男が入れていったメモがカサリと音を立てた。


「ごめん、遅刻しちゃったぁ!・・・どうしたの?具合でも悪いの?」

消えかけた意識の中に突然降ってきた明るい真衣の声に、青木は現実に引き戻された。顔を上げ、真衣の目を見つめると、大丈夫だと笑おうとした。

しかしながら、地面が大きく歪んで見えたと同時に、青木は意識を失い、倒れてしまった。

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