第30話

目覚めると、そこは病院だった。

起き上がろうとしたのだが、体を動かした途端、激しい頭痛に襲われて再びベッドに倒れこんでしまった。

「あら、お目覚めね。ガールフレンドが心配してたわよ。多分夏バテだと思うわ。9月中旬とはいえ今年はまだ暑いから・・・そうそう、ちゃんと水分とか摂らなくちゃダメよ!朝ご飯も食べてる?そういうところから気をつければ、夏バテなんてへっちゃらなんだから!最近のコは自己管理ができてないでしょ?まあ・・・あなたはどうだかわからないけれど。あ、入院の必要はないから安心してちょうだい。」

入ってきた看護士が言った。饒舌な人だ・・・と青木は半分呆れながら思った。背が低く小太りなその人は、肉を弾ませながらテキパキと動いた。その機敏な動作は、あまりにも体に似合わず、滑稽だった。

 ひととおり、やることを終えた様子の看護士は、ふうっと大袈裟に溜め息をつき、

「今彼女呼んでくるわね」

と言って、ド派手なピンクの唇をニッと押し上げて笑顔を作ると、小走りで出て行った。


それからすぐに、真衣が不安げな表情で入ってきた。

青木は心配をかけまいとできるだけ自然に笑いかけた。

その表情を見て、少し安心した様子の真衣だったが、まだ何か気にかかることがあるようだった。

「どうした?」

「・・・え?」

「いや、何か気にしてるような感じに見えたから。」

「・・・あのね、その・・・」

「うん?」

「悠が倒れた原因は、何?」

「ああ、夏バテだって、さっきよく喋る看護士さんが・・・」

「そうじゃなくて!」

原因は何か・・・真衣が望んでいる答えが何かはわかっている。青木は考えよう、思い出そうとした・・・しかし無理だった。

忘れたわけではない。まだ男の声が耳に残って離れない。だけど、それについて考えようとすると頭痛がして、思考が遮られてしまうのだ。

それに、真衣には、話せない、と思った。

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