一歩

第19話

真衣は向かいのコンビニで、ファッション雑誌をめくりながら待っていた。読んでいる様子はなく、しきりに外を気にしている。青木の姿を見つけると、慌てて雑誌を閉じ、外へ飛び出してきた。


「ごめんね、その・・・いきなりおしかけちゃって・・・」

久々に見たせいか、そう言って俯いた真衣の姿は、青木の目に、いつもよりも可愛く映った。夏が近く暖かいので、真衣は、ピンクの薄いジッパー付きの半袖のパーカーに、古着風のジーンズのミニスカート、パーカーの中にはスヌーピーの絵柄の白Tシャツという服装だった。以前は長く横に流していた前髪を眉上まで短く切りそろえていた。そのせいか、服装のせいか、少し幼くなったような気がする。

「髪切ったんだな。色も少し変えたか?」

「あ、うん!わかる?みんな、前髪しか気付いてくれなくて・・・

 色も変えたって言っても、わからないって言うのよ。

 悠は、さすがね。そういうところ、いつもよく気がつくよね。」

「みんなが、真衣のことを見てなさすぎなんじゃないか?」

「・・・あはは、なんかそれって、悠はよく見てくれてるみたいな言い方・・・」

「ああ・・・そうきこえた?」

「うん・・・」

 青木は、そういうつもりではなかった・・・という言葉を飲み込んで、『ふうん』と、返事とも何ともつかないような吐息を漏らすと、街路樹を見上げた。

 ザワザワと揺れる葉の隙間から、初夏の午後の日射しが、青木の目を刺すようだった。


二人は、ほとんど会話もないままに、人通りの多い道をただ歩いていた。

「お腹空いてる?ごはんは食べた?」

「いや、あまりお腹は空いていないんだ・・・」

「じゃあ、カフェかなんかでいい?ただ歩いてるっていうのも疲れるし、そのほうが、ゆっくり話しができると思うんだけど・・・」

「ああ、いいよ。」

「どこか、希望はある?」

「カフェなんて、お洒落なところへは普段行かないから、分からないんだ。真衣の好きなところでいいよ。」

「じゃあ、私がよく行くところにしましょう。」

真衣は、慣れた様子で、裏道へと入っていった。立ち止まりもせず、するすると歩いていく様子がまるで猫のように見えて、青木はこの日初めて、ふっと笑みをこぼした。

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