第15話
「あの、何かわかりましたか?」
優美に声を掛けられ、青木は我に返った。
「あ、いや、ごめん、俺にも、何がなんだか・・・」
「そう・・・ですか・・・」
優美の哀しげな表情に、心が痛んだが、しかしながらキノコのことについて話すわけにはいかなかった。
迂闊に話せば、優美や、中島の母親さえも、不用意に巻き込んでしまうこととなる。
第一、青木にとっても、まだわからないことばかりなのだ。
それに加えて、あまりに非現実的すぎる内容だ。話したとして、理解してもらえるとも限らない。
そして、実際のところ、キノコについて色々と推測は浮かんでも、中島の自殺の原因があのキノコであったとしても、青木にはもうどうでも良いことであった。中島の家族にしたって同じだろう。
何か納得できるような、中島の死について、気持ちを納得させられるような、そんな『理由付け』がしたいだけなのだ。
「優美ちゃん、思い出したんだが、中島は研究室について悩んでいると、3ヶ月くらい前に話していたよ。教授に、人格を否定されるようなことを言われた、とぼやいていた。
中島は、あれで結構、繊細なところがあったから、実は内心、とても傷ついていたのかもしれない。その教授は、何気なく発した一言だったかもしれないが・・・」
嘘はついていない、と青木は自分に言い聞かせた。
中島の自殺の原因に、このことが一切関係ないであろうということは、明確だった。しかし、中島の家族を納得させるには、中島の死に意味のある理由をつけるには、十分だろうと思った。
真実をはなすより、ずっといいだろうと考えたのだ。
「そうですか・・・いつも、人に認められて誉められてきた人間でしたから、兄にとっては、相当ショックだったのかもしれないですね・・・私たちには、そんなこと一言も・・・」
言って優美は静かに涙をこぼした。
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