第13話

冷たい風が、木々を揺らす。

 葉のない木々は、干からびたように立ち尽くしている。

「兄が・・・死にました。自殺のようです」

 不意に、優美が言った。

 小さい声だったが、一言一言、確かめるように放たれた言葉だった。

 青木は、聞き返すことができなかった。

 あまりにも優美の言葉が余計な感情を削がれた、純粋な言葉だったので、その意味を受け取り損ねたような感じだった。


 アニガ、シニマシタ。ジサツノヨウデス。


 お菓子の空き箱が風で飛ばされている。

―カラ・・・コロロ・・・パコッ・・・

 紙特有の乾いた音を立てながら、通り過ぎてゆく。

『・・・似ているな・・・』

青木は思った。

 つい先刻、優美が発した言葉の響きと、空き箱の立てる音が、同じに聴こえていた。


「中島は・・・君のお兄さんは、いつ・・・どこで・・・」

「自分の部屋です。正確に、いつ死んだのかはわかりませんが、発見したのは、昨日です。昨日の夕方。」

「そう・・・」

中島は部屋の天井に紐をくくりつけ、首を吊っていたらしい。遺書は、紙切れ一枚だけだったという。


「・・・そうか・・・中島が・・・」

その先は、青木は口にすることが出来なかった。


「これが、その遺書・・・のようなものです。

 これを遺書と言っていいのかはわからないんですけど。

 自殺の理由すら、ここには書かれていないんです。兄はここのところずっと部屋にこもったままでしたので、私たち家族ですら、兄の死の原因を・・・兄が死を選んだ理由を、知らないんです。

 青木さんなら、何か知っているんじゃないかって、母は言うんですけど・・・」

「いや、申し訳ないけど・・・俺にも・・・」

「そう、ですか・・・

 この内容に心当たりは、ありませんか?」

「・・・見せてもらえる?」

「どうぞ。元々、この遺書は、青木さん宛てなんです。

 今日来たのも、これをお渡ししようと思ってなので・・・」

「俺宛て・・・?」

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