第12話

それから1ヶ月経っても、中島は一向に大学に出て来る気配はなかった。いや、家から出ようともしていないようだった。

青木は、何度か中島に家に来るよう呼び出されたが、バイトが忙しく、レポートやテストに追われていたため行かなかった。

何より、行くのが怖かった。

電話のやりとりを通しても、中島の様子がどんどんおかしくなっていくのがわかった。話すことは不可解極まりなく、だんだんと呂律も回らなくなってきていた。声は掠れ、弱くなっていく・・・時折、意味のわからない単語を叫び、怒り出すこともあった。

中島に何が起きているのか、全くわからなかった。

そんな中島の様子を見に行く勇気は、青木にはなかった。



後期の授業終了の日、友人たちと帰ろうとした青木は、大学の前に所在なげに立っていた女の子に呼び止められた。


中島の妹の優美だった。


家から1時間半もかかる高校に通っている為、普段あまり顔を合わせたことはなかったが、中島と同様、整った顔立ちで、かなりの美人なので、青木を含め、中島の周りの男たちは皆知っていた。

青木を見つけると、優美は微笑んで軽く会釈をした。

「こんな所でどうしたんだ?」

優美は少しためらった様子で、あたりを見回した。

「すいません、少しだけ、お時間頂けますか?」

 友人達に冷やかされながら、青木は優美と二人、人通りの少ない公園へと移動し、ベンチに腰掛けた。

「何か飲み物でも買ってこようか?」

「いえ・・・結構です。」

「・・・そうか。」

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