第7話

それからというもの、中島はことある毎に、キノコを取ってきた。どこで見つけてくるのかはわからないが、自殺者に生えていることが多いという。中には生えていない人ももちろんいるが。

 そのキノコたちは、それぞれ味は違うものの、どれも美味だった。若い人のは、柔らかく、香り高い。年齢を増した人のは、ほどよい歯ごたえがあり、噛めば噛む程味が出てくる・・・

 中島はどうやら病み付きになってしまったようだった。

 青木はというと、確かにその美味しさには毎度、感嘆していたが、病み付きという程ではなかった。元々、青木はどちらかというと好奇心旺盛で飽き性、中島の方が凝り性という感じであったので、その流れは当然のことだったのかもしれない。


大学からの帰り道だった。

青木と中島は、いつものように二人で町を歩いていた。夕飯の買い物から帰る主婦たちに紛れて、前から、額にキノコを生やした女が歩いてきた。若い風の女性で、斜めに流した前髪から、ほんのりと茶色がかったキノコがのぞいている。

不意に中島は何か思いついた様子でその女に歩み寄ると、すれ違いざまに、さりげなくキノコをむしり取った。

「ゴミがついてましたよ」

中島は得意の好青年風な微笑をつけて彼女に言った。

「はぁ・・・どうも・・・」

女は前髪を軽く直しながら、怪訝そうな顔で通り過ぎていった。

「意外と平気なモンなんだな。」

「あぁ、でも、あのキノコ、死人にだけ生えてるわけじゃないんだな。生きている人間にも生えるとは、ますます謎なキノコだな。」

 

二人が話していると、突如、後方から悲鳴とも奇声ともつかないような叫び声が聞こえた。

「・・・な、なんだ」

 慌てて振り向くと、先ほどの女が、道の真ん中で暴れている。

周りの人達は何が起こったのか分からないといった様子で、ただ遠巻きに見ている。

「もしかして・・・キノコをむしり取ったせいか・・・」

青木はいやな予感を感じ、呟いた。

「まさか・・・」

中島も、可能性は否定できない、と思っているようだ。

二人は女の方を一瞥すると、再び顔を見合わせた。

「・・・行くぞ」


中島のその言葉を合図に、急いでその場を後にした・・・

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