第9話

電気を消してカーテンも閉めた部屋。

さっき食べたカレーヌードルの臭いと汗の臭いが混じりあって酷い状態。暖房を切ってるのに暑い。山積みの食器がガチャンと音を立てて崩れた。

「割れたんじゃない?」

「大丈夫、割れてはないと思う。そんなん放っとけよ。」

ケンタは犬みたいに必死であたしの耳を舐めてる。ガサゴソゴソゾゾゾ…紙袋でも被ってるみたいな音が不快であたしは顔をしかめた。でもケンタはそんなことにも気付かず、嫌がって体をよじるあたしを、感じてると勝手に勘違いして喜んでる。

「今日は彼女みたいに大事にするからな!後で腕枕でもする?」

妙にご機嫌なケンタに、笑顔を返しつつ、心の中で『いらない』と言った。


突然、頭のすぐ上で音楽が鳴り始めた。


~絶対絶命!頭のナカが

真っ白になってゆく

どしたらイイの?君のその顔が

歪んでユラユラ

現実はドコにある?


ギュンギュン鳴って耳をつく高音のギターに叫ぶようなボーカル。ヒドイ歌詞。

ケータイを開いたケンタの顔が一気に曇る。

「彼女?」

返事もせず黙々とメールを打っている。ケータイを閉じてやっと顔を上げたケンタは、渋い顔をしてた。

「解散になったから時間空いたけど何してる?ってさ…」

「来るの?」

「もう寝るからって断ったけど…」

頭を掻きむしって溜め息を吐くと続けた。

「来ると思う。」


わぁお、マジで絶対絶命。

「…まぁ、俺わりと寝つくの早いし寝たら起きないから、来たとしても大丈夫だよ。寝たふりしてれば帰ると思う。来るのにあと40分くらいかかるしね。」

「わざわざ来るの?」

「アイツの家、向かいだから。」

最悪のシチュエーションも有り得るってわけね…言いかけて口をつぐんだ。

季節は冬、外の気温は今の時間ならマイナスだろう。始発まで3時間…外で待ち続けたら凍死しかねない。

「とりあえず、まだ来ないし…大丈夫大丈夫、なんとかなる!」

笑顔であたしをなだめる…でも、自分に言い聞かせてるみたい。


気を紛らわせるように、ケンタはあたしを抱いた。だけど明らかにさっきまでとは違う。

ケンタの意識は、彼女の方にいってた…

腕枕をしながらも、その目は天井に釘付け。そこに彼女の生き霊でもいるんじゃないかって、思わずあたしまで天井を見てしまう。


ニワトリ型の目覚まし時計を見ると、メールが来てから30分を過ぎていた。

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