第8話

「今日さぁ、帰んなきゃダメなの?」

以前に合コンで知り合ったケンタと久しぶりに飲んでいると、唐突にそう切り出された。

『来た!』って、思う。

今日のあたしの格好は、白のタートクネックセーターの上に、淡いピンクのパフスリーブの半袖ワンピを合わせて、コートはベージュのトレンチ。もちろんスカート丈は膝上15cm。

髪の毛も朝、コテで巻いてきたから準備万端。

そう、お誘いモード全開。

親にも出掛けに泊まりになると言ってきた。

「んー?別に大丈夫っちゃ大丈夫だけど、明日朝から大学だしなぁ~…」

髪を指でクルクルと遊びながら、上目使いで少し困った顔をしてみせる。

「…それに、彼女いるんでしょ?」

「…まぁ…いる、んだけど…」

わかってたし、別にコイツの事が好きなわけでもないから彼女がいたって平気。でも…なんだか一瞬チクッと胸が痛む瞬間ではあるんだよね…

「いや、でもさ、今日は俺用事あるって言っておいたし、彼女も友達とオールで遊ぶって言ってたからさ、大丈夫だよ!ね?」

必死になって言い訳しちゃって、おかしいなぁ。男ってなんでみんな無駄に慌てて弁解するんだろう。

「それにさ、アリサも家からより、俺の家からの方が大学近いから楽だろ?30分くらいは長く寝てられるしさ。…泊まってけよ。俺、もうちょっとアリサと飲んでたい。もっと話したいよ。楽しいじゃん?」

言い終えないうちに、ケンタはボタンを押して店員を呼ぶと、追加のビールを2つ頼んでしまった。

終電まではあと15分。今すぐ出れば間に合うけど、ビールが運ばれてくるのを待ったらもう間に合わない。

コイツ、意外と計算高いんだなぁ。感心しつつ、少しいじけた顔をしてみせてから、笑顔で承諾する。

「しょうがないなぁ、もう。…でも、私ももっとケンタと話してたいって思ってたんだ。」

「マジで?良かった!」

あからさまに嬉しそうな顔をする。それなりに遊び慣れてる男はわりと、こういう瞬間を逃さない。ピンポイントで女心をくすぐって喜ばせるのが上手いんだ。

世のモテないとお悩みの男性諸君も、真似してみたらいいと思う。あたしも参考にはしてるから、女のコも有効かな?

「そういえばさ…」

もうHモードに脳が切り替わってしまったケンタは、話の路線も下ネタにチェンジしはじめた。


急加速。

暴走夜行列車はもう止まらない。

途中下車はできませんのでお気を付けて…

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