第4話

あたしは一体何を期待して、何に希みをかけていたのだろう。

あたしには彼氏がいるじゃない。これは恋なんかじゃない。確かに、ただ仲良くなりたいと、そう思ったのは間違いじゃないけれど、きっとそれは話していて楽しかったから。また話したいと思っただけ。

休学してしまうのなら、仕方ない。一年も経ってしまえば、あたしだって忘れているかもしれないし。もし今ここで急速に仲良くなったとしても、何の意味もない。それなら、変なことを考えるのはやめよう。

あの日のことは、楽しい夢だったと思えばいい。

そっと、心にしまっておけばいい。


自分に言い聞かせ、あたしは煙を肺いっぱいに吸い込んだ。

チクリ、と胸が痛む。

きっとこれは、煙を一気に吸い込んだから。

少し、涙が滲む。

きっとこれは、煙が目に染みたから。

大丈夫、なんてことない。なんでもない。


もしも、彼が・・・恭平さんが一年後戻って来た時に、あたしがまだ彼のことを覚えていたなら、そして再会したときにまだこの理由のわからないこのフワフワとするような感覚が変わらずにあったのなら、仲良くなれるように、頑張ってみよう。

・・・なんて、そんなこと今から考えたってどうしようもないよね。



喫煙室を出ようとした瞬間、隣で山ちゃんのケータイが鳴った。月9のドラマの主題歌で、毎週かかさず観てるうちに自然と覚えてしまったラブソング。主題歌を歌うのは、あたしは今までそんなに興味がなかったバンドなんだけど、この曲はいいなって思う。


―側にいたい 離れたくない

―あたたかな君のその笑顔が

―消える前に 冷めてしまう前に

―もう一度だけ どうか 僕のためにだけ笑いかけて・・・


耳慣れたその曲のサビの歌詞が、まるで今のあたしの心情をそのまんま表してるみたいで、ちょっとだけ、センチメンタルな気分で一人、喫煙所を後にした。




『さよなら・・・』

本人には言えなくて、誰もいなくなった夕方、また喫煙所を一人訪れ、呟いてみた。

恭平さんが先刻、立っていた場所へと視線をうつす。誰もいないその場所が、だけど輝いて見えた気がして、そんな自分に溜め息をついた。

視界がぼんやりと霞む。

大丈夫、これは、ここが煙たいからだよ。煙が目に染みただけだよ・・・

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