第2話

お互いの大学に入ったいきさつ、専攻の勉強の内容や、将来の夢・・・好きなことや目標なんかについて、ずっと話しつづけた。だけど、本当のところ、あたしはあまり内容なんて覚えていない。どうしてだろう、まるで魔法にでもかかったみたいに、あたしは彼の一挙一動に釘付けになって、その笑顔になぜか涙が込み上げてくるような感覚を覚えた。

ただただ楽しくて、本当にあっと言う間だった。

ただの、ヒマつぶしの、二時間。きっと彼にとってはそうだったのだろうけど、私にとっては、すごく楽しくて貴重な時間だった。夢みたいだった。

「じゃあ、そろそろ行くかな。」

「あ、それじゃあ、また。」

「ん、じゃあね。」

本当は、もうそこに残る必要なんて、私にはなかった。でも、『私も・・・』って言えなかった。時間が過ぎてしまうのが悲しくて、ほんの一瞬出遅れたのだ。彼が去って行ってしまった後、私は一人余韻に浸りながら、もう何本目かわからない煙草を手にとって、火を点けた。

溜め息のように煙を吐き出す。どうしてか切なくて悲しくて涙が出てきた。


あの人と、仲良くなりたい・・・

漠然と、でも確かにそう思った。


『あたし、彼氏いるじゃん。・・・あの人だって、彼女くらいいるだろうし、それにあたしは名前も聞いてない。番号もアドレスも聞いてないじゃん・・・』

もしかしたらもう、今日のように話せることはないかもしれない。そう思うと、さっきまでの出来事さえも、本当に夢だったのではないかと思えてくる。どうして、名前や連絡先を聞いておかなかったのか、彼がもう行くと言った時にどうして『私も』と言って一緒に行かなかったのか、どうして二時間以上も話していたのに、内容をほとんど覚えていないないのか・・・あたしは、自分を責めた。

人生には、タイミングというのがある。それを逃したら、うまくいくものもうまくいかない。もしも今日、彼とこうして話せたのが『運命』だったのなら、あたしは、せっかくの大事なチャンスを、タイミングを、逃したんだ。

彼氏からの誘いのメールを見て、あたしはさらに大きな溜め息を一つ吐くと、喫煙所を後にした。

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