第12話 本音と建前

リュックを持ち、集合場所に行くともう、ベンチには優奈が弁当を持って一人で座っていた。

僕が来た事に気がつくと、弁当をベンチに置き、こちらに向かって歩いて来る。

僕の正面に立っている優奈の顔は今にも泣きそうだった。

僕と優奈はベンチに座ったが、しばらくの間沈黙が続いた。

「ごめん。昨日は酷い事言って・・・。和樹が心配だからってカイに八つ当たり

して、ママにもひどい事言って私、最低だっ・・・」

優奈は流れ落ちる涙を拭うためにハンカチを取り出すが、拭いても拭いても止まらなかった。

「優奈は最低じゃない。朝弱くて布団引き勝負させられるけど、

大体優奈が負けて殺意のこもった目を向けるけど、僕が楽しみにしてたスティック

チョコ勝手に食べるし、子供っぽいし、冷たい日もあるし、休日ずっと寝てるし、だらしない・・・」

「全然・・・・慰めになってな・・・い」

「昨日言われて気づいたんだ。僕は優奈に他人に本気でぶつかった事が無いって。

いつも言葉を選んで相手を傷つけないようにして、本当の自分の気持ちを伝えられていなかった。

自分の事を大切に思ってくれている人を傷つけたくなかった。

嫌いになってほしくなかった。この星で出会った大事な・・・家族だから。

でも家族だからこそ、嘘をついちゃいけないんだ。本音をぶつけ合って・・

仲直りして一緒に遊びたい」

「カイは優しすぎるよ・・・。いいの?また私・・・カイに甘えて迷惑かけて、

八つ当たりするかもしれない・・・」

優奈の手が震えている。でも僕は自分の気持ちを伝える。

立ち上がり、優奈の前に立とうとする。

「それだけ和樹のこと心配してくれてた証拠だろ。もし、僕が行方不明になってたとしても一番心配してくれるのは優奈だと思う。優奈は優しいよ」

「カイ・・・」

べちゃ・・・

僕は動物のフンを踏んだ。

それで緊張が解けたのかいつものマイペースでちょっと冷たい優奈になった。

「こんな良いこと言った後にフン踏むなんて・・ふふふ」

「うるさいなー。必死だったの」

「カッコつかないのカイらしいー」

くすくす笑いながらトマトを口に放り込む優奈を見ているとさっきのあれも演技なのでは?と疑いたくなるが、未来と違って彼女は不器用、演技スキルなんて持ち合わせていない。

プシュ・・・

思い出し笑いしたのかトマト汁をスカートにこぼした。

「まずい・・・」慌ててハンカチで拭く。

「あーあ。そんなびちょぬれのハンカチで拭いたら・・・」

「やばっ、余計に汚れた」

「さっき笑った天罰だー。ふふふ」

「このヤロー」優奈が突進してきたせいで尻餅をついた。

未来に影響されているのか、煽ってしまった。

「いたた、ごめん。からかい過ぎた。これお詫び」

そう言ってティシュを渡す。

「さすが、カイ。ありがとう」

そう言いながら僕に手を差し伸べる優奈は天使のようだった。

こうなったのも彼女のせいだけど・・・。

その手を取ろうとしたら、引っ込めた。

からかい返し?

「まずい・・・」

「えっ?」

「友達がこっち覗いてる。ブラコン、ドSって思われる」

どっちも正解・・・

「和樹だし、大丈夫だよね」自分に言い聞かせるように優奈が言った。

「わざわざ時間作ってくれてありがとう。じゃあね」

雑に言って帰って言った。

そうだ、和樹のことだ。またしれっと戻って来る。大丈夫だ。

ゲーム王、浪費、赤点、でもいつも笑わせてくれる。

そう自分に言い聞かせた。

突然音が鳴り、電話かと思い、スマホを取り出すがスマホではない。

カマキから盗んだギンツェだ。

昨日の夜にいじってみて使い方はある程度分かったつもりだ。

この画面はおそらく電話だ。

警戒しつつ電話に出た。

「もしもし」

「もしもーし。誰だか分かるよね」

「カマキ・・・」

「ホント、腹立つなその声。まぁいいよ、君に話がある。君の友達

石田なごみじゅだっけ?ソイツの他にも人間を捕らえてある。

大切な人、信頼してる人なんだからもちろん来るよね」

これは罠だ。本当かどうかもわからない。

「声を聞かせてくれないか?」

「立場わかってる?」

「虚勢か。それなら用はない」

「カイ・・・」

「和樹、大丈夫か?今助けに行く」

「428ー3地区、廃工場で5時集合で。いいよね?」

「ああ、分かった」

電話を切り、和樹を必ず助けたいと思った。










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