第9話 一時的な安堵

雄馬くんはしばらく泣き続けた。僕のお腹に顔を埋めて。

そして落ち着きを取り戻した後、お詫びとして自販機でりんごジュースを買い、公園のベンチに座り、一緒に飲んでいた。

「おいしいっ」

「それは良かった・・いや良くないね・・・」僕は立ち上がり、雄馬くんの前に出る。

「ごめんなさい。雄馬くんに怖い思いをさせただけじゃない、危うく雄馬くんのパパやママにも悲しい思いをさせるところだった・・・」

深々と頭を下げた僕の視線は少し草が生えた地面に移る。そんな光景の中に雄馬くんの顔がドアップで突然出てきた。

「うあっ・・」びっくりした僕は尻餅をつく。

「謝んないで。お兄ちゃんは頑張ったじゃん。あんな強そうな相手に立ち向かって勝ったんだ。それだけじゃない。今日ぼっちで学校に行ってた僕に声をかけてくれて、

ついて来てくれた。すっごく悲しくて、家に帰ろうとしてた僕が学校に行けたのはお兄ちゃんのお陰だよ。ありがとう。お兄ちゃん」

「雄馬くん・・・。こちらこそありがとう。雄馬くんの言葉で僕は立ち上がることができた。本当にありがとう」

お互いにありがとうを言い合い、握手を交わした。

「ああ、そうだ」何かを思い出したのか、雄馬くんがランドセルを下ろす。

「はいこれお兄ちゃんにあげる」

そう言って差し出された手のひらには折り紙で作られた御守りが乗っていた。

「お兄ちゃんランドセルに付いていた御守りをジロジロみてたでしょ。

だから昼休みに作ったんだ」

「もらっていいの?」

「あげるために見せてるんだよ」

朝、緊張していた雄馬くんからは想像もできない笑顔でそう言った。

ふと時間が気になり、スマホで時刻を確認すると、7時になっていた。

「まずい。もうこんな時間に・・・。ごめん、雄馬くん僕、帰らなきゃ・・

家まで送って行こうか?」

「ううん、大丈夫。家近いから。」

カマキはリバースを使い、体力は残っていないから襲う事はないと思う。

カマキから奪ったギンツェ?でドッチカーナを使ったけど、サファリング星人の反応はないので帰ることにした。

「またね。雄馬くん。本当にありがとう」

公園を出ようとした僕を雄馬くんが呼び止める。

「人間じゃなくても僕にとってお兄ちゃんはお兄ちゃんだからねーーー」

その言葉に僕はとても救われた。


お兄ちゃんにこんなこと言って良かったのかはわからない。

でもあの嬉しそうな顔だ。だいじょーぶだ。お兄ちゃんはわかりやすい。

僕はお兄ちゃんにお願いがあった。

明日も一緒に学校に行ってほしい。でも、僕が一緒に居るとお兄ちゃんが大変な思いをする。だからこれでいいんだ。

友達作ってみせるよ・・・お兄ちゃん。

そう決心して僕は家の中に入った。久しぶりにパパやママが帰っていた。


ホント、おかしい。理不尽な目に遭う。いつもそうだ。僕は一番頭良いし、運動もできるのに・・・。ゴミ捨て場に倒れ込みながら思い出されるアイツの顔。

イグアの話によればアイツは魔法にウブというか知ってすらいない。

なのに魔法を使えた。俺が修得できなかったものを・・・。

主人公補正がある奴はこれだから嫌いだ。

アイツが事務所から飛び降りた時だってそうだ。

鎌を投げて糸を切ろうとしたが、切れなかった事を思い出す。でも公園では糸を切る事ができた。当たりが悪かったんだな・・・。

「ホント、運だけはいい奴だな・・・」そんな言葉を漏らすと、

向こう側から人型の影がやって来る。

「大丈夫ですか?」

「お前は・・・ロカイか?」

「はい。ロカイ・ツブリです。それにしてもカマキさんその怪我どうしたんですか?

何かありましたか?」

「ちっ、白々しっ・・。」

「白々しくもなりますよ。私たちはサウルスの代表として地球に調査に来ているんですよ。第二調査団として使命を果たしてください」

「お前は第一だろ、第二調査団の僕に口出しするな」

「察しが悪い人ですね。まさか、そのまま事務所に戻るおつもりですか?

何の成果も上げてないのに?」

「くっ・・・」

自分が僕よりちょっと優秀だからって調子乗ってるコイツが大嫌いだ。

見下ろすなよ。僕の方が先輩だぞ。敬えよ。

「きっとこのまま帰ったら、イグア団長はお怒りになるでしょう。今朝の襲撃事件もありましたし。あなたの出世コースは消えるでしょう」

「同情?慰め?そんな用だったらとっとと失せろ」

コイツのすぐに要件を言わないところが腹立つ。ガキのくせして大人ぶりやがって。

ロカイはしゃがみ、僕に目線を合わせる。


いつもより帰りが遅くなった。今日はいろいろな事があった。でも無事に帰る事ができて本当に良かった。そう思った。

ドアの前で息を整え、ドアを開け、元気よく言った。

「ただいま」

すると、奈央さんと優奈が走って来ているのかすごい音がする。

そして僕の瞳に映った二人の顔はそんなさっきの気持ちを吹き飛ばした。

「和樹君がまだ家に帰っていないみたいなんだけど・・知らない?」

「えっ・・・」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る