第5話 闘争・逃走本能
イグアがそう言い放った瞬間、この広間まで案内してくれた人と同じ銀色の甲冑を身に纏った人に囲まれた。
「カマをかけて正解だったな。お前は俺の話のある単語に反応した『こんな星』に」
こんな時に以前、未來に言われた言葉を思い出す。
「ラノベの主人公みたいに独り言多いよねーカイは。そのうち魔法の詠唱でも始めそう」
「俺は一刻も早く成果を出してプテーラ様に報告しなければならない。
同族にこんな扱いをさせるのは大変心苦しいが仕方がない」
コイツはそんな事微塵も思っていない。ただ目の前の獲物を狩ろうとしている。
目を見ればわかる。捕まったら、終わりだ。
「僕をどうするつもりだ?」
「さっき行った通りだ。捕まえて、地球の事を詳しく聞き出す。その後は、
サファリング星へ強制送還か、ここで暮らしてもらうかの二択だな。
ラストチャンスだ。どうだ?大人しくすれば、サファリング星へ返してやるぞ」
ここで捕まったら、帰ることができる。お父さんや友達にも会える。
元々ここは僕の故郷でもなんでもない。この星のについて僕が考える必要は・・・
天井の窓から、日がささなくなった。どれくらい時間が経ったのだろう・・・
気づいたら、言い放っていた。
「帰れなくなってもいい。あんたたちにとっちゃただの球形の星なのかもしれない。
でも、僕にとっては朝、味噌汁を作ったり、機嫌の悪い家族を起こしたり、
ゲームで勝負したり、からかわれたりした小さな思い出がたくさんある。
そして、これからもそんな小さな思い出を作っていく大切な場所なんだ」
「つまり、地球について教える気はないと・・いうことだな」
「もう教えたよ。今、自分の言葉で・・・」
イグアはこちらに手を掲げ、言い放った。
「カイ・コーノを捕まえろ。殺す以外はどんな手を使ってもいい、
絶対に逃すな。捕らえた者には相応の褒美を与える」
僕を囲んでいた兵は一斉に詰め寄る。そして、僕の指先から出ていた糸を切った。
糸を切った兵士は僕をここまで案内してくれた人だった。
「お前が糸を出せる能力を持っていたのは城の外の魔法『ルック』で確認済みだ。
そしてイグア団長と話している間に糸を生成していたこともな・・・」
「やっぱりバレてたんですね・・・」
「やっぱり?・・」
兵士がそう言った瞬間僕は思いっきり地面を蹴り天井にまで伸ばした糸を掴む。
登り棒の様にして登り天井に張り巡らせた耐震のための鉄骨の上に立って言った。
「あんたたちの好きな様にはさせない」
そう言って、糸を切り、天井に設置されている窓から広間を出た。
優奈との布団引き勝負の時にした足の指先からも糸を出して引っ張るドーピングがここで生きるとは思いもしなかった。
出てみると目の前には日が沈み、この街特有のちょうちん型のライトで照らされてい
るお陰か綺麗な街並みが広がっていた。
指先に力を込めて糸を生成する。近くにある高層ビルに糸を付けて、ターザンの様に
移動しようと考えているが、もし糸が切れたらサファリング星人とはいえ、ただでは済まない。
目を閉じ、深呼吸をする。裕二さんや奈央さん、優奈、未來、和樹の顔が思い浮かぶ。
そうしていると、余計に緊張してきた。戻れなくなるのが怖いからだろうか?
「見つけたよ」
僕の後を追ってイグアの部下がぞろぞろ来ると思って身構えた。居たのは城を案内してくれた兵士でもなく、イグアでもない。
金髪でチャラそうな人が来た。
「だっ、誰?」
「誰はないよね。この第二調査団で一番頭いいし、運動できる・・・
カマキ・リカバーだよ。この漆黒の鎌がお前の愚行を断ち切る・・・って言ってみたかったんだよね」
未來、これが本当の厨二病だ。
拍子抜けしたからかはわからないけど、緊張がほぐれて飛び移る覚悟ができた。
糸を手首にも括り付けて飛び降りた。
「ちょっ、待てよー」情けない声でカマキが言う。
足が軽く感じる。
視界にはちょうちん型ライトやコンビニ、ガソリンスタンド、ビルの明かりが映る。
「うわぁー〜ー〜ー〜、流石に怖いー〜ー〜っ」
そして今更気づいた。糸の長さが長すぎた。普通に地面に着く。
このままじゃ叩き付けられる。
「まずいっ・・・」
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