第三話 村唯一の図書館と司書さん

「ここに無い本はないですよ。古今東西の図鑑から絵本、小説に至るまで揃えてありますからね。」

 これが、この村唯一の図書館の司書さんの口癖だった。

 それを思い出して僕は図書館に訪れた。虹色の魚について何かわかるかもしれない。

 少し古臭い木造で平屋の図書館。でも、この村で一番大きな建物だ。たまに横に増築されてる。

 僕はよくそこで本を読んでいた。図書館にはみんな気味悪がってこないからだ。

 理由は、図書館が古くて不気味なのともう一つある。その図書館の唯一の司書さんだ。

 司書さんはいつも喋らずにずっと静かに本を読んでいる、白くて長い髪の男性だった。髪のせいでよく顔も見えなかったことも覚えてる。

 その容姿のせいで、みんな気味悪がって誰も図書館に近づかなかった。

 だけど、司書さんは近くで見るととても美しいと感じる容姿だった。透き通るような白い肌にルビー色のキラキラした瞳、高い鼻に潤いを帯びた唇、スラッとした高い身長に腰まである白い髪、どこをとっても綺麗だった。

 そんな男性に、僕は恋をしている。叶わないと思っていても、全てに対しての興味を失っても、司書さんへの恋心だけはずっと温かかった。

 生前に司書さんは気味が悪くないと話しても、誰も信じてくれなかった。挙げ句の果てには

「あいお前、あんな気味悪いやつのこと好きになったのか?ダッハッハッハッ!」

 なんて、クラスメイトに揶揄われた。

 でも、図書館に通うのだけはやめなかった。司書さんは、僕が図書館に行くといつも笑って出迎えてくれた。図書館だけが僕の居場所だ。

 司書さんは本で読めない漢字が出てきた時や意味がわからない言葉の意味、知っておくと為になる知識など色々なことを教えてくれた。

 そして、司書さんは少し変なことを言っていた。

「私、実は幽霊が見えるんですよ」

 なんて、子供騙しの嘘みたいなことだ。でも、そんな会話も楽しかった。

 そんなことを思い出しつつ図書館に足を運んだが、出かけているのかそこに司書さんの姿はなかった。

 図書館は開いていたので、僕は入って置いてある魚図鑑を全て読んだ。でも、虹色の魚についてはどこにも書かれていなかった。

 魚図鑑を片付けていると、村についての伝承が書かれた古い本を見つけた。どうせ暇だから読んでみることにした。

 伝承についての本を読んでいるとそこには、虹色の魚について載っていた。

 虹色の魚の本当の名前は「虹宿魚(こうしゅくぎょ)」らしい。

 虹宿魚は、月が空の頂点に達した時にだけこの村にある入り江に虹をその身に宿して現れるらしい。その入り江は、よく虹が見られることや虹宿魚が見られることから「虹の入り江」と呼ばれている。僕の自殺した場所だ。その他にも虹についての伝承も書かれていた。

 本を読み耽っているといつの真中深夜になっていたので、その日は図書館を後にした。司書さんは帰ってこなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る