第二話 虹色の魚を探して

 朝まで動けずにいた僕は、いつの間にか海面に体が浮上していた。

 朝に散歩しているお爺さんが僕の浮いている体を見つけて、慌てて引き上げて救急車を呼んだ。

 救急車が来るまでお爺さんは僕の体を揺さぶり、声をかけ続けていた。

「おい坊主!しっかりしろ!まだ若ぇじゃねぇか!こんなところでくたばるな!」

 そんな状況でも、僕は虹色の魚のことを考えていた。もう一度、あと一度だけでいいから拝みたいと思い続けていた。

 やがて救急車が到着し、警察も来た。

 僕の冷たい体が救急車の中に運ばれる間も、お爺さんは僕に声をかけ続けていた。

 お爺さんは警察に事情聴取されており、救急車で病院に一緒に来る事はなかった。

 病院について少しすると、僕の親が大粒の汗を流しながら僕が運ばれた病院に着いた。親が僕のもう動かない体の手に触れると強く握りしめて

「ごめん、ごめんね、ごめん」

 と、何故かずっと謝っていた。泣いて離れなかった。

 それから3日が経ち、僕は体から離れて自由に動けるようになった。

 自由になってからする事はずっと決めていた。虹色の魚探しだ。

 僕はまた海に行った。

 真昼の海は休日ということもあってか、人が沢山いて楽しそうだった。海は空をそのまま映し出していて鏡みたいだった。

 そんな事はどうでもいい。早く虹色の魚が見たい。早く、あの美しい姿をもう1度目に収めたい。

 僕は勢いよく海に走った。隙間の見当たらない人混みをすり抜け、海に入った。僕の姿は、海に映ってなかった。

 海の中は何度見ても綺麗だと、たった2度しか入っていない僕でもそう断言できた。

 岩に張り付いた貝殻はまるで瑠璃色のダイヤモンドのように輝き、色とりどりのサンゴは海が作り出した天然の絵画のようだった。

 そんな海の景色に魅了されるのに区切りをつけて、僕は虹色の魚を探し始めた。前と比べて自由に海の中を進んで行けた。

 海は僕を受け入れてくれているようだった。水泳の授業で泳ぐ時みたいに抵抗がなく、流れに身を任せる事だってできた。

 陽が落ちて、人の気配がしなくなるまで探しても虹色の魚は見当たらなかった。僕は諦めて海から上がった。もう月が空の頂点に達していた。

 その時だった、一ヶ所だけ虹色に輝いていることを発見したのは。

 僕は即座にそこへ向かったが、消えてしまった。

 その日はもう虹色の魚探しを諦めた。なんとなく、その日はもう見つからないと思ったからだ。

 次の日、僕はこの村唯一の図書館の存在を思い出した。

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