第17話

「こわく、ない」


訝しげに目を細め近づいてきた男は、涙に濡れ顔も化粧もぐちゃぐちゃな私に一言、


綺麗だ


と言った。



男はそのまま再び私の首に顔を埋めた。


さっきはなにもわからなかったが、

今は牙の感覚をしっかりと感じる。



呼吸が浅くなり、視界が狭くなってゆく中、

昔の映像が脳内に映し出される。


きっとこれが走馬灯。


一つもいい思い出なんかない。


死ぬ時にまでこんな過去思い出したくもなかった。



ふと、ひとつだけ胸が暖かくなる映像が見えた。


もうこの世にいない母との数少ない記憶。

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