第11話
ジョン・F・ケネディ空港は、いつものようにごった返していた。リックから、日を前倒しで帰ると連絡来て、絶対迎えに来て欲しいと言われたら、行くしかない。
飛行機は、無事到着していたので、ボーっと人の波を見ていた。その中に、1人だけ花束を持った人が到着ゲートの隙間から見えた。そのシルエットが、自分の知っている彼に似ている。目を閉じてもう一度、ゲートを見つめるとそこから出て来た健作が、花束を持って歩いて近づく。私は、2、3歩前に出て、彼を見つめる。彼は、少しはにかみながら、一言
「こんにちは?こんばんは?おはよう?久しぶり、元気だったかいケイト」
「ど、どうして、アメリカに来たの?」
「君の誕生日だったと思ったが、違っていたか?まぁ、良いこれを渡しても良い?受け取ってくれる?」
「もちろん、ありがとう、私の好きな花を覚えていた訳ないよね」
カラーの花束を受け取って言った。
「覚えていないけど、この花のブーケを持ったウェディングドレスの君の姿は忘れる訳はない」
日本人なのにキザな事もスマートに言う。
「もう、あなたは、本当に素敵だわ」
そうだ、そんなスマートで、心を優しく包んでくれる言葉をくれる人だったと思い出す。
「ファーストクラスの席だったから食事もフランス料理のフルコースでワインも堪能出来て、ゆっくりできたけど、なんかジャンクな食べ物を食べたい」
「わかった、荷物は?これだけ?」
「急に来たから、足らなければ洗えるだろうと思っていたが、君のホテルにはランドリーは頼めるだろう。君は今住んでいる部屋には洗濯機はあるのか?それともそれは使われていないとか?」
「洗濯機も掃除機も食器洗い機も電子レンジも冷蔵庫もあるわ、まだ、大学生の時のままだと思っているの?たまに使っているから使い方も知っている、ただ、買い物に行かないと」
「やっぱりだね、先ずはスーパーに行こう、惣菜でも買ってゆっくりと話をしよう」
時間が戻ったように、健作の肘を掴んでゆっくりと歩く。彼は、いつも私の歩幅に合わせて歩いてくれるから、かつかつ歩かなくてもゆっくり歩ける。車が、来るまで彼の肩に頭を預けて佇む。
スーパーで買い物を済ませて、自宅に戻る。今日は、ハウスクリーニングの日だから片付いている。
「健作、シャワーでも浴びて、とりあえず食べ物を並べておくから」
「えっ、良いのか?俺はホテルに行くけど」
「もう、ここにいるなら、ここで良いわ、リックの部屋もあるからそっちを使ってもらったら良い」
私はリックの部屋に案内した。
「それじゃ、シャワーを浴びてくる」
離婚した2人、もう15年も会っていない2人だけど、阿吽の呼吸のように2人のリズムが合う。不思議だったが、嬉しくて仕方がなかった。
自分の部屋のシャワー室で、私もシャワーを浴びて出ていくと、健作が、ソファで、リックのアルバムを見ていた。
「懐かしいでしょう?」
「君が、持っていったことは、1か月ほどしてわかったんだ。君が、僕達の部屋にたくさんの聖や君の写真を飾っていたから気づくのが遅れた」
「忙しかったよね」
「まぁ、そうだなだけど、義姉さんが手伝ってくれてどうにかなった。看護師の仕事を一時的に休んでくれた」
「あぁ、義姉さんにそんなに迷惑かけてめんぼくないなぁ、合わせる顔がないなぁ」
私は、少し恐縮した。
「大丈夫だよ、あの人気分転換に良いって言って、結構楽しんで仕事手伝ってくれてたから、今はもう看護師は辞めて、孫の面倒と旅館が忙しい時に応援で来てもらっている」
「義兄さん所もう、お孫さんがいる?って事は涼平君は結婚したんだ」
「薬屋の娘さんの美紗子ちゃんと結婚した。田辺クリニックは、涼平が継いだが、俺がここにいる間は、涼平が社長代理として手伝ってくれる。今はリックも手伝いたいって言っていたからこき使われているかもね」
「美紗子ちゃんって、妹さんいなかった?」
「従妹だよ、小学校の先生の娘さんだよ。真理恵ちゃんだろう」
「そう、彼女が、聖の初恋の人だよ」
「嘘だろう?」
「保育園の時から好きだって言っていた」
「真理恵ちゃんは、美人で町内で有名で、中学校の先生になるって言っていたけど、今は一般就職して大阪に一人暮らししている」
「やっぱり、日本だわ、町中が親戚みたいで、良い人ばかりだったと思う」
私は、羨ましいそうに洩らす。
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