第6話
カークと食事をして、私は、明日の朝早くから会議があるので、ホテルに泊まることにした。
シャワーを浴びて、身体はスッキリしたが、カークのことを考えると霧を見ている感じで何か見えそうで見えない。輪郭が、霧でぼやけて形が良くわからないような思った以上に自分の気持ちがはっきりしない。
リックは、日本の何処を何を考えているのだろう。健作さんと会ったのか?会わずにアメリカに帰って来るのか?数々の疑問は、浮かぶが結論が出ない。
あの日は、即決したが、リックとの諍いの後から、あれが良かったのかと考えてはぐるぐると同じ事を考えている感じがする。健作さんが、すぐに追いかけてくれるはずだと思ってアメリカ行きの最終便を買った。成田空港で朝から何度も携帯電話を見ながら待った。アメリカに着いて、離婚届を送った時も離婚届を持ってアメリカに迎えに来てくれるって淡い期待があった。全て反応は裏目だった。成田で待っている時はまだ、お葬式で忙しい中、喪主の彼が席を空けるのは無理だったのだろう。私が離婚届を送った頃は、団体のお客様の予約が入っていたはずだから、私とお義母さんが抜けた穴を必死になって埋めていたんだと今更ながらに思う。
翌朝、起きようとすると、足が萎えて立てない。すぐに、ハウスドクターをリリアに電話して呼んでもらう。
「熱が高いですね。点滴が無くなる前に看護師を派遣する。熱は、明日には下がるが、2、3日は、静養する様に仕事は出来るだけ急ぎ分だけに留めるようにお願いする」
ドクター・グランが、リリアに説明している。私は、点滴に少量の睡眠薬が入っているのか瞼が重くて目が開けれない。それから、色々な夢が、出てきた。内容は殆ど頭に残っていないが、沢山見たような感じだった。
3日目には、やっと瞼を開くことができた。
「ケイト?起こした?」
リリアが、尋ねた。
「いいえ、やっと瞼を開くことができた感じ」
ケイトが、ガラガラ声で言う。
「良かった。はいお水、熱は昨日の昼には下がったのに起きないから心配していた。急ぎの書類は、ジャックが処理してくれたから、大丈夫かな。書類は後でいいから明日までゆっくり寝ていた方が良いよ」
「久しぶりのに熱がでた、自分でもよくわかっていない」
「そうよね、あなたって本当に仕事人間だから、ほらこのお見舞い品の量凄すぎて笑えるほどよ。カークは、毎日お見舞いに来ようとするから、断るのも大変だったわ」
「鬼の撹乱か」
「何?それ」
「日本語の諺」
「そう言えば、リックがニューヨークに来るって、あなたの誕生日の前の日」
「そう、お迎えでもしてあげようかなぁ?」
「それが良いわ、仲良くして頂戴」
「わかりました」
リリアと一緒に大笑いした。
仕事に復帰して、カークが、部屋に来た。
「どうだい、少しは体調は良くなった?」
「ええ、大丈夫だよ、スタッフが良くやってくれたから大きな影響は出なかった」
「それは良かった。君は、人一倍細かい所まで気を配るから、無理が祟って大変になる。少しは気分転換も必要だよ」
「私の気配りなんて、私の義母よりはずっと大雑把だよ、義母は、自分のことよりお客様やスタッフに気を配る人だったから、私は、大したことないわ」
「それは、日本人だからだろう、君はアメリカ人だしここはニューヨークだよ、あまり棍を詰めるなよ」
「わかりました、ありがとう、まだもう少し仕事があるから、明日の会議は出てくれるのでしょう?」
「勿論だけど、病気になったばかりだから気をつけて」
「ありがとう」
「「バァィ」」
私は、そうよね、ここはニューヨークだから、もう少しおおらかに構えても良いんだと思う反面、日本にいた5年間で接したお義母さんの気配りは、日本人だからじゃない彼女だからだと思う。私の中でカークが言った言葉が、心の奥を細い棘で刺された痛みを与えた。
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