第5話

 月曜日から忙しくなって、リックの事、日本の事を考える暇もなく働く。カルフォルニアボールドホテルが、3か月後の創業100周年の記念にリニューアルオープンするにあたり工事の様々な打合せが続いている。

 カルフォルニアボールドホテルは、海岸側の国立公園の側にある。元々国立公園の一部は、ホーガン一族が所有していた土地だったが、国立公園選定の時にはホテルは開業していた為に、土地を賃貸する代わりに国立公園内のホテルとして存在することを認めてもらっている。

 緑豊かで広大な国立公園を背景にしたホテルは、ここ数年老朽化が激しく、海岸沿いに高層ホテルを利用してもらう事が多い。しかし、今まで通り不便でも公園側の低層ホテルを好む人もいる。年配のお客様には古い映画のシーンの中に映る風景や装飾を凝らした年代物階段やホールは、何度もドラマに利用されて、歴史もある分中々改築が難しかったが、今回は、2年前から全面的に閉館して、今の良いところと古く歴史的にあるものを上手く利用し合っての改築を目指した。これは、リックが、3年前、伯父に話していた時に提案したものが基本になっている。それ以来、私は、広報責任者として全面的関わっている。

「ケイト、今日は夕食でも食べないか?」

 支配人のカークが、執務室のドアを開けながら話す。

「そうね、このところホテルのルームサービスばかりだからたまには良いかもね」

「8時に迎えで良い」

「頑張って今日の分は終わらせるわ」

「中華で良い?」

「オッケー」

 カークは、出て行った。

 リリアが、予定の変更があるかを聞いてくる。

 私は、今日は7時で切り上げて一度自宅に戻り8時にカークと出かけることを伝える。

 8時過ぎに、カークは迎えにきてくれた。私は、ちょっとだけドレスアップして待っていると、彼はすごく喜んでくれた。

「これは、破壊力が半端ないな」

「そう、このワンピースを一目見て買ったの、だけど着る機会が無くて、派手?」

「とっても素敵だよ」

 2人は、しゃべりながらホテルの前に止まっているリムジンに乗り込んだ。

 デザートのマンゴープリンを食べながら私は、カークに話しかけた。

「美味しい食事と楽しい時間をありがとう」

「ケイト、オーナーからの話は聞いている?」

カークは、少し緊張して尋ねた。

「うん、お付き合いをしてみないか?って話だよね」

「そう、君は真剣に考えてくれているのかどうかを知りたくて、返事は君の誕生日だとは聞いているが」

「考えてはいる。だけどここ2週間は、ヨーロッパの買付け等で少し疎かかも」

私は、全然考えていないことを悟られないように答えた。

「まぁ、君も仕事が忙しい人だから、煩くはしたくないとは思っているが、俺は真剣なんだ」

「それも聞いている。だけど、結婚したって仕事は辞めないから今とあまり変わらないと思うけど、それでも良いのかしら?」

「僕は、仕事をしている君も好きだ。俺は、支配人として殆どの時間をホテルで過ごす。君と同じ家で暮らす時間は少ないかもしれないが、少ないなりに君と君との時間を大切にしたいと思っている」

「わかったわ、誕生日まであと1カ月半ほどあるから真剣に考えてみるわ」

「今日はそれが目的だった」

 カールのいつのない真剣さにドキドキしながら、仕事にかまけて、全然考えてなかったことを見透かされたのでは心配になる。

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