第4話
聖が、来年は小学校に入る初秋、お義母さん宛に電話が鳴った。
義母さんが、電話を取るとあの日、隆平義兄さんを迎えに来たF県の叔父からの電話だった。
彼は、お義母さんに、隆平義兄さんが原因で、隆平義兄さんの奥さんが交通事故を起こした。彼は事情聴取の途中に逃走したと言う。そちら側に行くかもしれないから来たら家に帰る様に説得して欲しいと言うものだった。
お義母さんは、あまりにも突然な話に驚いて、貧血を起こしてしまった。
それから一週間ほどで義母さんの体調は復調してきたが、お義母さんは、隆平義兄さんの事を気にしているようだが、口には絶対しなかった。あの日、雨が止んで日がさしてきたので、聖を連れて近くの公園にお義母さんが、気分転換に出かけた。
そこに、隆平義兄さんが、突然現れて、健作と言って聖に手をかけた。義母さんが、必死になって止めたので、隆平義兄さんはすぐに気がついてやめた。が、彼は、自分の行動に驚き、実の母親を突き飛ばして逃げてしまう。警官が到着した時には頭から血を流していたお義母さんとぐったりとしていた聖が公園に残されているのを見て、救急車を呼んだ。
お義母さんは、突き飛ばされた時に、砂場のコンクリートの角に頭をぶつけて亡くなってしまった。聖は、救急車の中で意識が戻って大したことも無かった。
ケイトは、念のために入院した聖の付き添いをして病院にいた。健作さんから隆平義兄さんが自死したと電話で聞いた。
次の日、退院して聖と家に戻り、葬祭場に行くとそこには義母と義兄の遺体と遺影が並んでいた。
ケイトは、信じられなかった。事故とはいえ被害者と加害者が仲良く並んで葬式をあげると言う事が、彼女の今までにない衝撃だった。
「何故、義母さんの横に加害者の義兄の遺影と遺体があるのよ、信じられない」
健作さんに、噛み付く様言う
「あれは、兄貴と決めたんだ。隆兄は、母親から強制的には離されてしまって以来、ちゃんとしていたら迎えに来てくれると思っていたらしい。ちゃんと住職になっても結婚しても、後継を作っても母親は、一度もきてくれなかった。それは、母親に何事があろうとも寺に来るな、来たら遺産を取りに来たと思うと言って隆兄の叔父に脅されていたようだ。その事を偶然隆兄が、知って以来情緒不安定になった。昨日、隆兄の叔父からこちらでは葬式もしません、そちら側でよろしくお願いしますと言って、たったの20万円振り込まれて来たよ。俺も兄貴もそれを聞いて泣いた。だから、お袋が最後まで心配していた隆兄と一緒に葬ってやると決めた。だから、ケイトこのことは理解して欲しい」
「聖は何で傷つけられないといけなかったのよ、聖も被害者だわ、絶対的におかし過ぎる。私は、あの義兄を許したくない。あなたが、彼を許すのならもう、今日でここからは出て行く」
ケイトは、雨の中リックを連れて山を降りた。
その日のうちに東京に行って、携帯が鳴るのを待ったが、忙しい健介からは連絡は入らなかった。
ケイトは、アメリカ行きの最終便でアメリカに帰った。
思い出しながら、目からは涙が出てくる。優しいお義母さんとのゆっくりとした充実した毎日、旅館業の難しさについて健介と意見を戦わせた日々に親子3人で暮らす楽しいこと全て、ケイトは覚えている。ただ、今でも大好きなお義母さんの命を奪った義兄は許したくないと思うのであった。あれ以来ずっと健作さんと会うどころか話しもしていない。お互いの携帯電話の番号は変えていないのに、それが自分を頑なにする原因だとは思っている。
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